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テイラー・スウィフト全米ツアー初日徹底レポート:全10枚のアルバムから44曲を演奏した一夜

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Taylor Swift - Photo: Kevin Mazur/Getty Images for TAS Rights Management

2023年3月17日、アリゾナ州グレンデール市のステート・ファーム・アリーナを皮切りにスタートしたテイラー・スウィフト(Taylor Swift)の全米ツアー「The Eras Tour」。この初日公演について、akemi nakamuraさんによるライヴレポートを掲載。

また、この初日公演のセットリストはプレイリストで公開中(Apple Music / Spotify / YouTube)。

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約5年ぶりのツアー

「あまりに胸がいっぱいで、どんなにみんなに会いたかった語りきれない。だって今の気持ちを言葉にすることすらできないから。ただ、ひとつ言えるのは、今、みんなのおかげで最高の気持ちだってこと!」

3月17日、今年世界が最も注目し期待するテイラー・スウィフトの『The Eras Tour』が、アリゾナ州グレンデール市のステート・ファーム・スタジアムでとうとう開始された。そのステージで、彼女が開口一番、熱狂するファンに語ったのが上記の言葉だ。それはツアー初日に集まった7万人のファンも同じ気持ちだろう。このすでに「歴史的瞬間」と言えるようなライブを、ファンは約5年間も待っていたわけだから。そしてこの『The Eras』と題されたツアーは、テイラー17年間の全キャリアをここまでテイラーと一緒に歩んできたファンと一緒に祝福するこれ以上ないような幸せな場所だった。

「今日は、みんなと一緒に冒険に出る。1つのエラ(=時代/アルバム)ごとに。この17年間私が幸運にも作ることができた、そしてみんなが優しいから聴き続けてくれた音楽を今日はみんなと一緒に探求したいと思う」

と言って、彼女が2006年に発表したセルフタイトル・アルバムから、2022年『Midnights』までの全10枚から、アルバムごとにパフォーマンスしたのだ。結果なんと全44曲、3時間12分! 彼女のライブとしても最長の「歴史的」なライブだし、しかも、今までキャリアのど真ん中でこんなツアーをしたアーティストっていたんだろうか?と言う意味でも前代未聞だ。しかも何が最高だったかというと「スタジアムツアー」の常識を破るような彼女独自の世界観が形成されたライブだったこと。このツアーへの期待は誰にとっても最高値だったが、その期待をはるかに超える21世紀王道メインストリームの最高峰を堂々と見せつけてくれた。

 

初日公演地の盛り上がりと記録尽くしのツアー

このツアーは、8月9日のLAの最終日まで52公演開催されるが、チケット発売だけで、チケットマスターのサイトでアクセスができなくなり、議会で取り上げられる前代未聞の「事件」となったほどだった。また、先月には、この同じ会場で史上最高の視聴率を誇るアメリカ最大のイベント、スーパーボウルが行わればかりなのに、グレンデール市は、テイラーのツアーの開幕地に選ばれて光栄だと、市の名前をライブ開催日の3月17、18日の2日間限定で“Swift City”に変えたくらいの舞い上がりぶりだった。地元のニュースを見れば、スーパーボウルよりも経済効果をもたらしたとホテルやバーの人達が笑顔で語っていた。

さらになんと初日の観客動員は7万人以上で、これはアメリカでは女性アーティストとして1987年にマドンナがアナハイム・スタジアムで樹立した62,986人を36年ぶりに抜いて北米史上最高を記録。また、コンサートおよびライブ音楽業界向けの業界誌、Pollstarの発表によると、初日のペースで52公演行うと1年間のツアー興行成績が現在1位エド・シーランの4億3200万ドル(約570億円)を余裕で抜いて、5億2000万ドル(約686億円)を記録し1位になることが予想されている。

このツアーが、尋常ではない歴史的な瞬間となった理由は他にもたくさんある。2020年の『Lover』のスタジアムツアーの“Lover Fest”17公演が、パンデミックでキャンセルされたこと。そのため、『reputation』ツアー以来ファンは約5年間も待っていたこと。そして、テイラーがそのパンデミック中に新作を3枚(『folklore』『evermore』『Midnights』)も発表したことも。

彼女もライブ中に言ったけど、『reputation』ツアーで、「みんなと最後に会って以来、ファミリーが4枚(『Lover』も入れて)も増えた」のだ。しかも、過去のアルバムの再レコーディングも、『Fearless (Taylor’s Version)』と『Red (Taylor’s Version)』で行った。『folklore』と『evermore』というインディ・フォークな新境地かつ野心的な作品で、これまでにない高評価を得た。その後に、ポップ路線に戻った『Midnights』を発売し、売上が彼女のキャリアで最高を記録した。つまり、人気も、評価も、最高に達する中で、その全てを祝福する『The Eras』ツアーが発表されて、どんな内容になるのか、期待も注目も最高となっていた、などだ。

なので、“Swift City”には全米はもちろん世界各国からファンも集まり、筆者が乗ったNYからの飛行機も同じ列は全員テイラーのファンだった。みんなテイラーTシャツなどを着ていたのですぐに分かった。

https://twitter.com/aaakkmm/status/1636729162332524547

 

集まったファンの服装とオープニングアクト

初日は、開場前からグッズが発売されていたので、3時頃に行ってみたら、会場内はテイラーへの愛が溢れんばかりの大賑わい。すでに“テイラー・フェス”と化した幸せな空間が広がっていた。買うまでに1時間くらいは並んだが、ファンの幸せな様子を見ていたらまるで苦にならなかった。何しろ全エラのテイラーが目の前に広がっていたのだ。

『Red (Taylor’s Version)』の赤い帽子にトレンチコートから、「22」の赤いハート型のサングラスに、一番多かったのはフリンジのミニスカートドレスで、『Fearless』や『Speak Now』、『1989』ツアー時まで、また『reputation』時代のニュースペーパー柄に、『Lover』時代のパステルピンク&ブルーのグリッターミニドレス、『evermore』のフランネルシャツに、『Midnights』の曲「Lavender Haze」のパープルのシャギージャケットなど。

また、『1989』収録「Shake It Off」のMVから飛び出したチアリーダーになっている人もいれば、『folklore』収録の「mirrorball」になっている人もいた。それぞれのファンにとってテイラーがどんな意味があるのか、いかに独自の方法で繋がっているのがそれで一目瞭然だったのが何より最高だった。

前座はゲイルとパラモアというテイラーの原点であるナッシュビルがあるテネシー州のアーティスト。予定通り6時半にゲイルが開始。ゲイルは、「今自分がここにいるなんて信じられない」とヒット曲の「abcdefu」で泣いてしまっていたし、続くパラモアも、ヘイリー・ウィリアムスが、「歴史的瞬間に立ち会ってるよね」とステージ上その祝福と興奮も告げた。2組ともより激しいロック・サウンドでこの瞬間を全身全霊で盛り上げたい気持ちが伝わってきた。パラモアが、アメリカのライブはあり得ない早さの7時半には終了したので驚いた。

 

コンサートの始まり

そして8時ぴったりに、カウントダウンするスクリーンに時計が映し出されると7万人が絶叫。時計の数字が0になるとピンクとパープルの巨大で優しく、揺れる花びらか蝶々の羽のようなものを纏ったダンサーが1人ずつ登場。会場はふんわりとしたピンクに包まれた。こんな優しくもゴージャスな幕開けはこれまであっただろうか?ストリングスによるエモーショナルなサウンドとともに、幻想的な世界観が作られる。

スタジアムツアーと言うといきなり花火が飛びまくる激しい幕開けを想像するが、その常識を破るような、全く予想していなかった柔らかで、女性的で、彼女の成長と自信と洗練を象徴するようなオープニングだったことに驚き感動した。これはファンとの祝福の場であり、しかも新しいことに挑戦している。このオープニングがそれを象徴していた。そもそも、一番売れている時に、過去10枚の作品をスタジアムでパフォーマンスするアーティストなんてこれまでにいなかったと思うのだ。

 

Era 1『Lover』

「私の名前はテイラー、1989年生まれ!」という声が響き、ダンサーが着けていた羽が真ん中に重なり合って開いた瞬間にそこからテイラーが登場。注目の1曲目はなんと「Miss Americana & the Heartbreak Prince」だったのにまた驚いた。シングルで発売されていないし、誰もが思う幕開けの曲ではない。しかしこの曲はテイラーのドキュメンタリー映画『ミス・アメリカーナ』のタイトルにも使われたし、高校生的なロマンスと当時のアメリカの大統領と政治への思いも込めた深い曲だ。彼女の成長を記録する曲でもある。そう考えると幕開けに相応しいし、また、ライブが『Lover』から始まるのも納得だ。『Lover』のツアーは、キャンセルになったし、全体としてもポップなアルバムだから。

この日は、それぞれのアルバムの世界観を変えることなく、曲のアレンジも大きく変えることなく、しかし衣装やセットは最新版に更新されていた。だから、ファンは、それぞれのアルバムに自分が抱いていたイメージはそのままで、大事な思い出と感動が新たに書き換えられたような最高の演出だった。だから、『Lover』エラで、テイラーは、パステルピンクとブルーのスパンコールのレオタードで登場。もちろん会場は最初から最後までこれ以上ないくらいの歓声に包まれた。

1曲目のスピリチュアルかつ壮大なるパフォーマンスに続き、2曲目は「Cruel Summer」。この日は12曲がライブ初のパフォーマンスとなったのだが、1曲目に続きこの曲もそう。「ハイ!」とみんなに手を降り、歌い始めると、その高音がとにかく美しくて、始まったばかりの恋愛の脆さがエレガントにしなやかに歌われる。サビでは全員に配布されたリストバンドがピンクに輝き早速鳥肌。

続く「The Man」は、自分が男だったらと言う観点から女性差別を描くシリアスなテーマの曲だが、オフィスのセットが登場し、シルバーのオーバーサイズのジャケットを着たテイラーは、コミカルなダンスを披露しながら、軽やか歌い上げた。

「Lover」では、再びジャケットを脱ぎ、ピンクのアコギを抱えて花道の真ん中に立ち、これぞテイラー的な姿。「みんな気付いてるかもしれないけど、今日はツアーの初日なの」と会場を笑わせた。「だから、みんな大変な努力をしてここに集まってくれったことよね」と言ったので大歓声。彼女が、ファンの気持ちを分かってくれて早速泣けた。そして「初日に来たいと思ってくれて、心の底からありがとう」と語った。そして「私はこれまで色んな曲を書いてきた。失恋の曲から、10代の三角関係から、嘘を付く人についてから。だけどこの曲は、伝統的なラブソング」と「Lover」をしっとりと歌い上げた。しかも観客席がリストバンドでハート型に光る演出にも胸がキュンときた。「あ、それから私の名前はテイラー。今夜のホストを努めます」と付け加えて言ったのも可愛かった。

5年ぶりのライブだし、ヒット曲だけを駆け足で演奏するようなライブだと思っていたけど、アルバムごとにパフォーマンスし、ヒット曲もあるけどレア曲もあって、スタジアムツアーだけど、ハードコアファン向けであるのが、テイラーとファンの関係性ならではと思った。小説を章ごとに読んでいるような感じでもあり、テイラーがいかにこのショーを新しく特別な体験にしようとしているのかが伝わってきて感動した。「The Archer」のエレクトリックビートでは、ファンのその瞬間の胸のドキドキがそのまま響いているようにすら思えた。

 

Era 2『Fearless』

続いたのは、ナッシュビル・サウンドの『Fearless』。ステージにはバンドも登場し、王道ロック・サウンドのエモーショナルなギターソロが響き渡る。全体的にも『Fearless』のゴールドとシルバーの世界に変わり、テイラーはゴールドのフリンジにシルバーのアコギで飛び出してきた。

フィドルサウンドが鳴り響いたからか、2008年のアルバムだからか、思い切り胸がじんときたが、続いて「みんな高校時代に戻る準備はいい?」と「You Belong With Me」から「Love Story」と続き、一瞬にして会場全員の心がティーネイジャーに戻ったのが分かるくらいだった。アコギ・サウンドが深く胸に刺さり、観客もその時々を思い出すように大合唱している。もちろん今10代のファンもたくさんいて期せずして再レコーディングすることになった『(Taylor’s Version)』のおかげで新世代のファンがこの作品と出会えたのだろう。

また、今回ファンが着てきた衣装で分かったが、それぞれ思い入れのあるアルバムが違うし、曲が違うし、好きな理由が違うというのが最高なところでもあった。アーティストとしてこれだけ多くの人達に様々な解釈をされることくらい嬉しいこともないだろうと思う。全ての人の心に、それぞれの形で「テイラー・スウィフト」が存在している。それが共感ということであり人気が出た理由でもある。それをこの日は改めて目撃できた。

 

Era 3『evermore』

ここから再びライブ初パフォーマンスとなる『evermore』へ。同じアコギでも華やかなナッシュビル・サウンドから今度はインディ・サウンドへ大きく変貌。ステージもきらびやかなゴールド&シルバーから「willow」のMVのような美しい深い森が目の前に広がる。「willow」では、オレンジのオーガニックなロング・ドレスの上に、MVで着ていたケープを羽織りパフォーマンス。幻想的で、スピリチュアルな世界観が広がっていた。

ここで驚いたのは、『evermore』と『folklore』が発売された時、これはパンデミックの最中で、スタジアムツアーをしなくて良いからできたアルバムだと思っていたけど、大きな間違いだったことが即証明されたこと。この2枚のアルバムからの曲がいかにその時のファンの心に届き、支えたのかも伝わる熱狂的な大合唱が繰り広げられたのだ。

緑の苔がついたピアノに座ると、「みんなに報告したいことがたくさんあるのは私だけ?」と語り、「だって最後にツアーしてからもうずいぶん時間が経っているでしょ」と新作が4枚もできたこと、最初の6枚のアルバムを再レコーディングすることにしたと報告。続いて、「今は『evermore』エラを演奏しているところだけど、私は、このアルバムが大好き。TikTokでみんなが言っていることに反してね(笑)。みんなが書いていることは全部読んでるから」と言って会場を笑わせた。これはTikTokで突然「テイラーは『evermore』が嫌い」がトレンドになっていたのだ。だから、それへの返答だ。

https://twitter.com/aaakkmm/status/1636941310451159041

またまさかスタジアムに響くことになるとは思っていなかった祖母が亡くなったことを歌う「marjorie」のエモーショナルなパフォーマンスにも感動。続いて「“evermore”を作った時からみんなと一緒にスクリームしながら歌いたい、と思っていた」とファンがこのアルバムで好きな曲「champagne problems」で大合唱。『evermore』エラを締め括ったのは「tolerate it」。報われない愛についた歌った曲を巨大なテーブルに端に座る男性と、ブロードウェイの舞台のように再現。ライブの中でも最もアーティスティックな瞬間となった。

 

Era 4『reputation』

深い森から大胆に変貌して、スクリーンにはあのヘビの映像が映し出され会場が再び大絶叫となった。オーガニックから、エレクトリックビートで、ヒップホップで、ダークで、ハードなメインストリームの世界へ。演出も最新テクノロジーを駆使した映像と照明で、強烈。とりわけ「…Ready for it?」は、『evermore』からのギャップもあり、思いきりメジャー感が際立つ。これだけダイナミックな世界観の変貌は、彼女がこれまでどれだけ音楽的な冒険をしてきたかも象徴していた。

「Don’t Blame Me」ではテイラーもこの日最高かというソウルフルなボーカルを響かせた。最後を締めくくった「Look What You Made Me Do」は演出が圧巻。巨大なスクリーンに映し出されたMVは映像が更新されていて、ダンサーが歴代のテイラーとなり、かつてのテイラーがガラスのケースの中に入れられてもがいている。あまりに壮観だった。

 

Era 5『Speak Now』

ダークな復讐劇のテイラーから、最もプリンセス化した瞬間。『Speak Now』ツアーで着ていたゴールドのシフォンドレスが最新版となったような、目を奪われるあまりに美しいゴールドのボールガウンで登場。パープルの霧が立ち込める中で「Enchanted」を熱唱。『Speak Now』からはなぜか1曲のパフォーマンスだったが、この日のハイライトと言えるなんともゴージャスな瞬間だった。

 

Era 6『Red』

テイラーのアルバムの中でも最も人気がある中の1枚『Red』は、ライブのど真ん中でパフォーマンスされた。この日、ファンもたくさん着ていた「22」のMVのTシャツを、テイラーも文字を少し改訂したものを着て、弾けるように登場。

ステージの照明も赤になって、この日最もポップな瞬間となる。曲が終わると、ステージ上で衣装替えをして、再びスパンコールのボディスーツとなり満面の笑みでダンサー達と飛び跳ねながら「We Are Never Ever Getting Back Together」。そして、この日最大のハイライトとなったのは「All Too Well」だ。

「『Red』は私にとって、アーティストとして、そしてまだ若い自分にとってすごく大事で、特別なアルバムだった。それを2012年にみんながあんな風に受け入れてくれて本当にびっくりした。それからまさか10年後にもこんな風に応援してくれるなんて。10年後にこのアルバムは自分のアルバムなんだと主張したいがために、再び作るとも思ってもいなかった。本当にありがとう」と言うと大歓声。「だから、このアルバムから、あと10分演奏させてもらってもいいかな」となんと10分バージョンの「All Too Well」が聴けたのだ。

ここで語られている物語のリアルさも、それを告げるメロディも、MVでの映像も重なり、テイラーの物語が7万人の物語として昇華され大合唱されていた。テイラーの曲の中で間違いなく最高の曲のひとつと実感できた。

 

Era 7『folklore』

再び森の少女へと戻り、2021年のグラミー賞でも登場したような屋根に木が茂る家が登場。その上に座ったテイラーは、パープルの美しく柔らかなロングのシフォンドレスで森の妖精になったようだった。しかもこの日『folklore』からの曲が最も多い8曲も演奏されたのも驚きだった。

アコギを抱えて、「このアルバムではいつもと違うことをしたかった。私のアルバムはいつも耐えがたいくらい自伝的だから(笑)、ここではキャラクターを作ったらどうなるかを試した作品だった」と語った後に「それで私の曲ってつまるところ男の人に、どうやって(彼らが)謝ればいいのかを説明しているようなものなの(笑)」と言ったから笑えた。

「彼らにどうやって修復すればいいのかを一歩一歩教えているわけ。彼らに謝ってもらうことがとにかく大好きだから。それを3分間の曲に込めて歌っている(笑)。それでこれはジェームスが謝ろうとしていることについての曲。彼女の名前は“betty”(笑)」と紹介しエモーショナルに歌い上げた。

そしてこのエラのハイライトのひとつは「my tear ricochet」だ。これは、彼女の元レーベルが彼女の原盤権を売ってしまったことへの裏切りをもとに書かれた曲で、テイラーも「お葬式」と言う言葉を使って表現していた。美しいコーラスが響いた瞬間のスクリーンには、彼女の目から涙が流れるところが映し出され、ステージ上では、彼女の後に本当のお葬式のように黒いドレスを着たシリアスな表情の女性達が並んで前進する、最も美しくも悲しくパワフルなイメージを披露した。これがこのスタジアムライブのひとつのテーマでもあったと思う。男性社会の中で成功した彼女のささやかな抵抗の象徴だ。

『folklore』エラでは、いかにこのアルバムに壮大なエモーションが描かれていたのかをビジュアルで表現していた。このアルバムで最も人気があるだろう「cardigan」で締め括られ大合唱となった。

 

Era 8『1989』

そして会場がしんみりメランコリーになったところで、最も人気があるアルバムの1枚『1989』エラに突入。今度は『1989』ツアーの時に着ていたピンクのフリンジのミニスカートドレスに着替え、ファンクなビートでダンサーとともに「Style」をパフォーマンス。さらに44曲も演奏されたのに、名曲であることが浮き彫りになる「Blank Space」も軽快に披露された。

テイラーの曲の中でも最も弾けた「Shake It Off」から、「Bad Blood」では会場にパイロが上がり、これぞ最もスタジアムライブな瞬間となった。しかしそれを観て改めて『folklore』エラで、野心的な試みに感動したし、彼女がすでに過去に経験したスタジアムツアー的なもので埋め尽くしたくなかったのも分かった。

 

サプライズソング

今回のツアーでは、ライブ中にアコギのセクションがあり、毎回演奏する曲を変えるそうだ。この日は『folklore』から「mirrorball」が演奏されたのだが、この曲を書いたのは「みんなのこと愛していると言いたかったから」と恥ずかしそうに言ったので、じんときた。

パンデミック中に最初に書いた曲の1曲で、つまりは自分にはみんなに観てもらいたいという気持ちがあることが歌われていると語っていた。アコギと彼女のボーカルだけで、彼女がこの曲を書いた時に求めていたファンとの結び付き、愛がスタジアム中に溢れた瞬間だった。

https://twitter.com/aaakkmm/status/1637039456342671362

Era 9『Taylor Swift』

間違いなく7万人がボロ泣きだった場面だ。デビュー・シングルの「Tim McGraw」がピアノで歌われたのだ。会場のエモーションも頂点に達し、最もシンプルなパフォーマンスで、彼女の才能が最もあらわになって、心が震えた瞬間だった。ここでなんと彼女がステージの海に飛び込んだからびっくりした。

Era 10『Midnights』

ライブを観ている途中で一体最後はどのアルバムになるんだろうと思っていたけど、『Midnights』で完璧だ。この作品は、ポップで軽やかだし、最新作だし、それに彼女のここまでのキャリアを総括するようなサウンドでありながら、新たな視点から鳴っている作品だから。全曲ライブ初パフォーマンスだったのも貴重だ。

ラベンダーのシャギーなジャケットをテイラーが着て登場し、雲が再現され、会場もラベンダー色に包まれる美しい演出。「Vigilante Shit」ではブロードウェイショーを彷彿とさせるようなイスを使ったセクシーとも言えるダンスが披露されて少し驚いた。かと思うと「Bejeweled」では彼女のファンによるダンスがTikTokでバズったのだが、まさかテイラーがそのダンスの動きを見せたのが最高にチャーミングだった。

そしてこの3時間以上のライブを締め括ったのは「Karma」で完璧だった。レインボーの衣装を纏ったダンサーと花火が上がりながら華やかに会場もダンスをして終わった。しかしこの曲も始まりの「Miss Americana & The Heartbreak Prince」と同様、シングルで発表されていない曲だ。普通のコンサートだったら大ヒット曲で盛大に終わるところだがそれとは違うのが最高なのだ。

エレクトロ、ニューウェーブの美しい層があるこの曲「Karma」はアルバムが発売された当初から最も人気のあった曲で評価も高かった曲ではある。でも、これこそが、何より、この日テイラーが全てにおいてありきたりのことをしなかったことを象徴していると思うのだ。それができる今の彼女の自信も象徴していると思うし、何よりその自信は、ここに集まってくれているファンがそれを分かってくれていると言うファンとの関係性への自信でもあると思う。

全10枚のアルバムから演奏された曲も、単にヒット曲だけを並べたベストヒット的なありがちなセットリストにしなかったことも素晴らしい。また、『folklore』のようなスタジアム向きとは思えないアルバムも大々的に演奏したし、3時間以上もあったことも。苦労して集まったファンも100%以上満足したはずだし、この全てをファンも各自で心の底から堪能したと思うのだ。

7万人が、テイラーの曲でひとつになる感動。メインストリームでありながらも、独自の存在であり続け、しかも今回のライブで彼女がいかにサウンド面でも様々なジャンルに挑戦してきたのかがよく分かった。人一番努力し、苦労し、傷付き、それでも自分の道を進み続け、今世界の頂点に立っているテイラー。そして、キャリア最高の瞬間にいる彼女をファンは心から祝福していた。最高の3時間12分だった。

テイラーは、「一生忘れない。ありがとう」と言っていたけど、この日の7万人と、そしてこれから彼女を観るファンも毎晩同じことを思うだろう。NYに戻る飛行機を待つ空港のロビーでは、早速ファンがセットリストについて大論争を繰り広げていて、それぞれの意見が違ったのがものすごく微笑したかった。

Written By akemi nakamura | Photo by Kevin Mazur, Kevin Mazur, John Shearer /Getty Images for TAS Rights Management


セットリスト
Taylor Swift “The Eras Tour” Setlist at State Farm Stadium | Mar 17 2023 Arizona. USA

Apple Music / Spotify / YouTube

 


最新アルバム
テイラー・スウィフト『Midnights』

2022年10月21日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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