人気急上昇中の英R&Bの新星オリヴィア・ディーン、MSGでみせた圧倒的に新しい存在感
2025年9月26日にリリースしたセカンド・アルバム『The Art Of Loving』が母国UKだけではなくオーストラリア、アイスランス、オランダなど全世界7か国で1位を獲得、全米チャートでは初時登場8位から2週目には7位、3週目に6位に上昇。2026年2月に開催されるグラミー賞の最優秀新人にノミネートされるなど成功を収めているオリヴィア・ディーン(Olivia Dean)。
同作からの先行シングル「Man I Need」が全英1位、SptofyのGlobalチャートでは最高3位を記録している彼女がニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにて行われたサブリナ・カーペンターのコンサートのオープニング・アクトとして出演した。このライブ・レポートが到着。
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アメリカ2万人の前でのライヴ
約2万人を収容するニューヨーク、マディソン・スクエア・ガーデン。その広大な空間に、オリヴィア・ディーンは軽やかに姿を現した。サブリナ・カーペンターの前座というポジションながら、ステージに立った彼女はすでに自然なカリスマ性をまとい、次なる主役の座を約束されたような、あふれんばかりの才能とスターの輝きを放っていた。スクリーンに「OLIVIA DEAN」の文字が浮かび上がると、会場からはまるで彼女こそを観に来たかのような歓声と絶叫が上がる。
「『The Art of Loving』はプリンスを聴きながら作ったの。私がステージに立って踊り、みんなも踊っている姿を想像していた」と彼女は語っていたが、オープニング・ナンバー「Nice to Each Other」の軽快なビートが響いた瞬間、観客が一斉に踊り始めた。
Olivia Dean is now on stage at #NYCShortnSweet!
via @christimsoblue pic.twitter.com/U2sXKKbXSi
— Sabrina Carpenter Daily (@SCdailyupdates) October 26, 2025
UK出身のポップ/ネオ・ソウル界の新星。9月にリリースされたセカンド・アルバム『The Art of Loving』収録の「Nice to Each Other」「Lady Lady」「Man I Need」はいずれもビルボードのグローバル・チャートで上位にランクインし、世界的なブレイクを果たした。発表されたばかりのグラミー賞では新人賞にノミネートされ、まさに今年の顔といえる存在だ。さらに来年には、ロンドンのO2アリーナ(キャパ約2万人)での4公演をすでにソールドアウトさせている。
「ハロー、MSG(マディソン・スクエア・ガーデン)!」と笑顔で声を上げた黒のスリップドレス姿の彼女は、クラシックでありながら軽やかで、どこまでもエレガントだった。脈打つベース、ドリーミーに揺れるギター、キャッチーなメロディ。観客は自然と体を揺らし、笑顔がこぼれる。すべての人を招き入れるような風通しの良いサウンドが、会場をやわらかく包み込んでいった。歌詞では、終わった関係を振り返りながら「もっと優しくできたはずだった」と語るが、オリヴィアの歌声は決して湿っぽくならない。後悔を抱えながらも、前を向くためのポジティブさがある。
主張しすぎず響く音楽
彼女のようなサウンドは、今のポップ・ミュージック・シーンで“個性を競い合う”時代にあって、主張しすぎないのに深く響く。気負いのない魅力と、包み込むような確かな声。それがリスナーの心に自然に染み渡っていく。懐かしさと新しさが絶妙なバランスで共存し、どこかレトロで普遍的でありながら、圧倒的に新しい存在感。それを自然体で表現してしまう。それこそが、オリヴィアに今、世界が熱狂している理由だろう。
続く「Ok Love You Bye」では、ホーンセクションが加わり、ステージに一気に都会的なジャズクラブの空気が広がる。恋人とのすれ違いを描いたこの曲では、「I love you」と言いながらも「Bye」と別れを告げる――その軽やかさの中に、オリヴィアらしいリアルな強さが滲む。
ロンドンのBRIT Schoolで音楽を学び、ソウルやジャズ、R&Bの伝統を継ぐ彼女。デビュー作『Messy』では内面を丁寧に見つめたが、セカンド『The Art of Loving』ではポップやボサノバ、ディスコを軽やかに行き来しながら、より開かれた世界へと踏み出した。親密さを保ちながらも、サウンドの自由度を大胆に広げてみせたその感覚が、この夜のライブ全体を象徴していた。
そしてMCで、彼女はアルバムについてこう語った。
「セカンド・アルバムが1ヶ月前に出たばかりなんだけど、『The Art of Loving』といって」と言うと、大歓声が起こる。「このアルバムは“愛”についての作品。私たちの人生のあらゆる形の中に愛は存在していて、それをもっと分かち合い、自分の中でより深く感じることができる――そんなアルバムにしたかった」と続けた。内側に沈み込むように自己を見つめたファーストから、他者や世界に向かって愛を差し出すセカンドへ。その変化は、彼女の確かな成熟を物語っている。
陽気な空気と茶目っ気
ここでテンポが変わり、ステージは一気に陽気な空気に包まれる。
「次の曲はアルバムの中でも一番気に入っている曲。今、みんながブラジルのビーチにいることを想像してみて」と紹介されたのが、「So Easy (To Fall in Love)」だった。ボサノバのリズムと、シャーデーを思わせる心地よくゆるやかなグルーヴ。「自分に恋するように、誰かに恋していい」という肯定の感覚がやわらかく広がっていく。過度な表現を避けながらも、なぜこんなにも強く響くのか――それは、オリヴィアの歌が「自分を大きく見せるため」ではなく、「本来の自分をそのまま差し出すための歌」だからだ。
また、彼女の茶目っ気が見えたのは「Ladies Room」。カッティング・ギターが小気味よく鳴るこの曲で、手拍子を促しながら笑顔で語りかける。「次の曲は女性トイレについて。ここにいる女性たちはきっと分かってくれるはず」と紹介すると、バンドは軽やかにジャムを繰り広げ、会場の熱気も一気に高まった。
中盤のハイライトは「Let Alone the One You Love」。
「次の曲は、アルバムの中でも特に誇りに思っている一曲。ちょっと胸が締めつけられる曲なんだけど…もし今夜、この会場のどこかで心が傷ついたままの人がいたら、私はあなたの味方です」と語り、ホーンセクションに導かれてスローに歌い始める。観客は静かに携帯の光を掲げ、彼女の声に聴き入った。悲しみを強く訴えないことが、逆に会場をひとつにした瞬間だった。
https://twitter.com/OliviaDeanStats/status/1983326870163857675
“心地いい”だけではない前へ進むエネルギー
「私にとってとても特別な曲」と紹介された「Carmen」では、18歳でカリブからイギリスへ渡った祖母への思いを歌う。勇気をもって生きた祖母、そして移民として人生を切り開いたすべての人への敬意を込めた曲だ。ホーンセクションが印象的に鳴り響くこのナンバーは、祖母の強さを祝福するような、軽やかで芯のあるソウルだった。
そこから一気に終盤の盛り上がりへ。大ヒット曲「Man I Need」で会場は再び跳ねた。ディーンは決して無理に観客を煽らない。けれど、喜びが自然に波のように広がり、誰もが体を揺らしていた。軽やかなメロディと、今のシーンにはあまりない風通しの良さ。ただ“心地いい”だけではない、前へ進むエネルギーがそこにあった。
Olivia Dean that best new artist grammy is yours pic.twitter.com/4HjAkcoM3y
— 𝔖𝔱𝔢𝔭𝔥 𐚁 SEEING ARIANA 7/22| Mrs. Withers (@negressvelaryon) October 29, 2025
「ニューヨーク、あと1曲だけ! そして次はサブリナ・カーペンター!」と笑顔で叫ぶと、「最後の曲は、昔ながらのシンプルなラブソング。愛を自分の中に受け入れて、また外へ返していく。ただその流れに身をまかせて、愛があなたに降りそそぐのを感じてほしい。愛は自由なもの。誰かにあげたって、何も失われないから」と語りかけ、デビュー作からの「Dive」へ。
まるでジャズ・クラブに足を踏み入れたような高揚感に満ちたサウンドとともに、ステージも観客もひとつになる。最後の音が鳴り終わるまで、オリヴィアのポジティブな躍動が会場を包み込み、圧巻のライブは幕を閉じた。
IM SCREAMING SO BAD I DID NOT KNOW THIS SONG WAS OLIVIA DEAN BC THEY PLAY THIS SONG AT MY JOB LIKE 20 TIMES A DAY WIFBWODBOWJDWK pic.twitter.com/0zxLlLxPYR
— 𝔖𝔱𝔢𝔭𝔥 𐚁 SEEING ARIANA 7/22| Mrs. Withers (@negressvelaryon) October 29, 2025
オリヴィアの音楽は、誰かを愛しながらも“自分らしさ”を手放さないための揺らぎと、その中に宿る強さを、まっすぐに描き出している。ライブの彼女は決して声を張り上げない。けれど、その歌は確かな手応えとともに、観客の心を揺らし続けた。普遍的でありながら、実は今の音楽シーンでは稀有な存在。それがオリヴィア・ディーンだ。
これだけ多彩な楽曲を、いともたやすくステージで表現してしまうのも、実は高度な技術と構成力があってこそ。だが彼女は、その洗練をひけらかすことなく、自然体のままさらりとやってのける。その姿に、流行の枠を超えた“本物の才能”を実感した。「グラストンベリーのヘッドライナーになりたい」と夢を語っていたけれど、オリヴィアはすでにその未来をまっすぐ見据えていた。
10月29日NY MSG セットリスト
Nice to Each Other
Ok Love You Bye
Lady Lady
So Easy (To Fall in Love)
Ladies Room
Let Alone the One You Love
Carmen
Man I Need
Dive
Written By 中村明美
2025年9月26日発売
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