ドーチー(Doechii)ライヴレポート:壮大なセットとエンタメ意識の高さ、そしてストロングな姿勢

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Photo: Paras Griffin/Getty Images

米ビルボードによる2025年の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選出、2月のグラミー賞では最優秀ラップ・アルバム賞を受賞、NAACPイメージ・アワードで最優秀新人アーティスト賞にも輝くなど、ラッパーとして活躍と評価が著しいドーチー(Doechii)。

そんな彼女がオーストラリアでライヴを実施。松永 尚久さんによるこのライヴのレポートを公開。

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自身初の受賞(最優秀ラップ・アルバム賞)を果たした2025年開催のグラミーのパフォーマンスで、体幹の強靭さを駆使したエンタテイメント性に優れながらもヒップホップのマナー/ルーツを感じさせるテクニックを披露し、その場にいたオーディエンス(登壇ミュージシャンを含む)はもちろん、世界中を熱狂させた米フロリダ出身のシンガー/ラッパー、ドーチー。

2025年3月には、ゴティエの2011年発表の「Somebody That I Used To Know」をサンプリングした楽曲「Anxiety」で自身初の米ビルボード・トップ10入りを果たし、その後も6月にはファレル・ウィリアムスとのコラボ曲「Get Right」をルイ・ヴィトンのコレクションにおいて披露するなど楽曲のリリースはもちろんのこと、ロラパルーザなど世界各地のフェスにも登場(ただし8月に初となったはずのロンドンのフェス出演はドタキャン)。

10月からは自身初のヘッドライン・ツアー「The Live from The Swamp Tour」がスタート、さらに11月にLAにて開催されたタイラー・ザ・クリエイター主催のフェス「Camp Flog Gnaw Carnival」でも圧巻のパフォーマンスを展開するなど、この年のヒップホップ、いや音楽シーンを<現場>から盛り上げてきた彼女。

 

豪州「Spilt Milk」でのパフォーマンス

その締めくくりを飾るパフォーマンスといえるステージだったのが、オーストラリアで開催されたフェス「Spilt Milk」だ。週末にかけてシドニーやメルボルンなど、主要都市をまわるツアーのようなもので、今年はケンドリック・ラマーがヘッドライナーとして登場。ドーチーは、メインステージにおけるケンドリック前の出演となる。

筆者が訪れたのは、西オーストラリアのパース公演。パース駅から電車で20分程度で行たどり着く、海や森に囲まれたフジロックとサマソニを掛け合わせたような会場であった。メインステージは、フジロックのグリーン・ステージの規模感で、ほかに2ステージで構成された非常にコンパクトなもの。また、1日のみで終了するため、がっつり海外のフェスを楽しみたい人には物足りないかもしれないが、カジュアルに体験をしたいと思う人であったらピッタリな環境ではないかと思う。

午前中から地元のミュージシャンやバンド、またソンバーやドミニク・ファイクなどが会場を盛り上げ(なぜかパフォーマンスの終了時間が早め)、ドーチーの出演時間になると、ステージ上が慌ただしい様子に。まるでヘッドラインか?と思わせる壮大なセットが組まれていくのだった。

それも、先月までは大きなスピーカーがセッティングされていたものの、今回は草が生い茂った森のなかに佇む廃墟のような家が組まれていった(時間が早まっていたのはおそらくこのせい)。新たなチャプターが、ここから始まりそうな予感がしてワクワクが止まらず、筆者を含め多くのオーディエンスが前方に続々と詰めかける。

 

ステージのスタート

そして、おなじみの<喘ぎ声>をサンプリングした重低音のビートが轟き始めると、ドーチーが(家からではなく)ステージの袖から登場。これまでのスクール・ガールっぽいイメージを一新。ウェーヴィーなロング・ヘアに、ディースクエアードのものと思われるビキニのトップスにコルセット、大胆にファスナーのボタンを全開にしたホット・パンツというセクシーなルックスで、高速ラップをポール・ダンスを交えながら披露していく(やはり体幹が素晴らしく美しいダンスだ)。

セットの雰囲気を含め、ワイルドさやストロングな印象を刻んだオープニングのパフォーマンスに続き、<日産アルティマ>をタイトルにした「NISSAN ALTIMA」(2024年)のフローが響くと、会場は大熱狂!セットに組みこまれていたバイクに跨りパフォーマンスを披露しさらに勢いを加速させ、大ヒットしたダンス・アンセム「Alter Ego」(2024年)へと続いていく。

途中ではクリスタル・ウォーターズの1991年発表の名曲ハウス「Gypsy Woman」とのマッシュ・アップも繰り広げ、オーディエンスのテンションも爆あがり。隣にいた踊りまくる観客から何度もレザーのバッグをぶつけられた(筆者も非意図的にトートをぶつけ返してしまっていた)ほど、タイトルどおりそこにいる人間すべてが<別人格(Alter Ego)>を露出させていた印象。これは日本でも盛り上がりそうだ。

さらに、「Persuasive」ではチャーリー・XCXの「360」をミックスしたヴァージョンでパフォーマンス。そこからは、ヒップホップに限らずさまざまなジャンルから、自由に表現する彼女の柔軟な感性を感じることができた。

以降も、DJ Miss Milanとの絶妙なかけあいを繰り広げながら(基本ドーチーはMCをせず、DJがマイクを握るスタイル)、圧倒的なビートを響かせていたステージ。でも、ところどころに響くサウンドが、生バンドっぽい雰囲気なのが気になっていたのだが、廃墟セットの裏でバンドが演奏しているのを発見!1時間足らずのステージなのに、相当な予算をかけて挑んでいるドーチーのエンタメ意識の高さに圧倒されながら、ステージは終盤に。

すると、ヘヴィーなギターの音色が会場に轟き「Anxiety」を歌い始める。新ヴァージョンか?と思いきや、ゴティエの耳なじみのあるイントロが徐々に響き始める。すると、ゴティエの出身国ゆえか、会場は大歓声に包まれ全員で「Somebody That I Used To Know」を合唱。一体感が生まれたような気がした。これは、ドーチーのちょっとした<心遣い>だったに違いない。

ラストには、グラミーでも披露した「Denial Is a River」をパフォーマンス。DJとのコミカルなかけあいを含めながら(楽曲にある<喘ぎ声>は彼女のものでなかったことが判明)、最後に「本当にホットなステージだった。パース、ありがとう!」と告げ、ステージを去ったドーチー。そこにいるすべての人を楽しませることに徹底したステージであったと同時に、今後はよりストロングな姿勢で自身の信じる音楽や考えを伝えていくというステイトメントを感じさせるものであったと思う。

ぜひ、日本でも彼女のアティテュードを感じたいものだが、あの壮大なセットなどを考えると、なかなか難しそうな……。

Written By 松永 尚久



ドーチー『Alligator Bites Never Heal』
2024年8月30日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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