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1973年を彩ったブラック・ミュージックのベスト・アルバム12選(+α)

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ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第33回。

今回は、ちょうど50年前となる1973年に発売されたブラック・ミュージックのアルバムについて。

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1972年はソウルとファンクの当たり年だった。だから翌1973年になっても、ビルボードのアルバム・チャート(当時はHot Soul LPs名義)では1972年作が牛耳る状態がしばらく続く。それが純1973年型の作品に取って代わられていくのは3月くらいから。こうして、1972年に勝るとも劣らない1973年の豊作ぶりが徐々に明らかとなるのだ……。

というわけで、1973年を彩ったブラック・ミュージックのアルバム12作(+α)を紹介したい。

とはいえ、ここではチャート・アクションや売上枚数といった面ではなく、あくまで丸屋九兵衛個人の独断と偏見で選出したことをお断りしておく。なお、紹介の順序はランキングではなく発売日順。こうすることで「当時のリスナーたちがどんな作品とどんな順番で出会っていたか」を追体験する材料になれば、と思う。もっとも、今となっては(発売月はともかく)日付を特定できないアルバムもあるのだが……

1.『Wattstax: The Living Word』(1月18日発売)

いろいろ理屈をこねたものの、このリストは前年のレガシーから始まる。紆余曲折を経て当時のソウル界で最強レーベルの一つとなっていたスタックス・レコーズが1972年8月20日にLos Angeles Memorial Coliseumで開催し、10万人以上を集めた慈善コンサートが『Wattstax』。それを収録した映画(それ自体は2月4日にアメリカ公開)のサウンドトラックとして発売されたのが本作だ。

特にアイザック・ヘイズがリムジンに乗って入場した後、ジェシー・ジャクソン師によって紹介されるあたりは「映像で見てこそ」という気がしないでもないが、映画には「市民へのインタビューやリチャード・プライアーの漫談がそこかしこに挿入される」という特徴がある。音楽に集中したい人には、本アルバムを。

Medley: Son Of Shaft / Feel It (Live At The Los Angeles Memorial Coliseum / 1972)

 

2. バリー・ホワイト『I’ve Got So Much to Give』(3月27日発売)

70年代をブラック・ミュージックにとって初めての本格的な「アルバム時代」とした真の立役者は、上記のアイザック・ヘイズである。そのヘイズのスタイルは余人には真似できない……かに思われたのだが、そこに現れたのがバリー・ホワイトだ。のちに、DMXとジャ・ルールが、ミラクルとパスター・トロイが通ることになる道ではあるが、このバリー・ホワイトのデビュー作も「アイザック・ヘイズに似すぎ」と評論家筋から叩かれたという。

両者の共通点は、ストリングスをバックに鍵盤を弾き、低い声で愛を延々と歌うこと(とにかく曲が長い)。両者の相違点は? バリーは服を着ている。バリーは髪を伸ばしている。バリーのほうが、やや歌がうまい。そして、ヘイズはテネシーの農場育ち、バリーはサウスセントラルのギャングスタ。

ここからヒットした「I’m Gonna Love You Just a Little More Baby」を聴くと、やはりバリーの曲の方が都会的、そんな気がする。そうそう、バリーには「曲名が長い」という特徴もあるのだ。ほとんどボビー・ウォマックなみの。

I'm Gonna Love You Just A Little More Baby

 

3. ザ・ウェイラーズ『Catch a Fire』(4月13日発売)

この時代の彼らは「ボブ・マーリーに率いられたバンド」ではなく「ボブを含むヴォーカル・トリオとしてのウェイラーズ」なので、リイシュー以降の“Bob Marley & The Wailers”名義は誤解を招くと思うのだ。

よく知られているように、本作はジャマイカでいったん完成したオリジナル音源を持ってボブがロンドンに飛び、同地でアイランド・レコーズのクリス・ブラックウェル社長と仲間たちがリワークしたもの。2001年には、ジャマイカ録音そのままの盤を追加したCD2枚組仕様のデラックス・エディションがリリースされ、本来のサウンドを聴けるようになった。

Stir It Up (1973) – Bob Marley & The Wailers

 

4. カーティス・メイフィールド『Back to the World』(5月発売)

前年の『Super Fly』に比べれば地味な印象があるかもしれないが、まぎれもなくカーティスにとって最高傑作の一つ。時にホーンズ、時にストリングスをバックに、カッティングギターと優しいヴォーカルが社会問題を訴え、メッセージを届け、愛を歌う。のちにハービー・ハンコックによってカバーされたせいかもしれないが、ファースト・シングルとなった「Future Shock」は特にモダンでクールな印象を与える。

Future Shock

 

5. アース・ウィンド・アンド・ファイアー『Head to the Sky』(5月30日発売)

これはアース・ウィンド&ファイアーにとって3枚目のアルバム。とはいえ、フィリップ・ベイリーが加入したのは本作からであり、我々が知るアース・ウィンド&ファイアーはここから始まる。数年後に彼らが到達する洗練されたサウンドは望むべくもないが、カリンバが疾走する「Evil」や、ファンキー極まりない「Build Your Nest」など、原石の輝きがキラキラと。エドゥ・ロボのカバー「Zanzibar」では、既にブラジル趣味が爆発している。

Earth, Wind & Fire – Build Your Nest (Audio)

 

6. スライ&ザ・ファミリー・ストーン『Fresh』(6月30日発売)

沈み込むように暗く、異常な濃密さ(特にA面)で迫り来る超絶傑作『暴動』こと『There’s a Riot Goin’ On』から1年半。スライが新生ファミリー・ストーンと共に届けた本作は発表当時、『輪廻』なる邦題がつけられていたという。それほど本作の特に冒頭部には「生まれ変わり」感があり、晴れやかな明るさに満ちて聞こえたということか。

しかし後半、「Que Sera, Sera (Whatever Will Be, Will Be)」から「If It Were Left Up to Me」への流れで諦観と希望を演出した後に、『There’s a Riot Goin’ On』直系の「Babies Makin’ Babies」でアルバムを締めくくるあたりに、スライのシニカルさが漂っているようにも思える。

いくつかの収録曲は互いに似通っている。だが、金太郎飴こそが世界で最も美しいキャンディである、と言っておこう。

Sly & The Family Stone – Babies Makin' Babies

 

7. スティーヴィー・ワンダー『Innervisions』(8月3日発売)

この1973年、特に8月は凄い月だった。そんな豊作月のリリース・ラッシュは本作に始まる。量はともかく質の面では、おそらくテスィーヴィー・ワンダーのキャリアを通じて最高傑作であろうアルバム。

スティーヴィーらしいシンセサイザーとクラヴィネット、そして特有のドラム乱れ打ちが最も輝いていた瞬間がここに。サルサ趣味が爆発した「Don’t You Worry ‘bout a Thing」で、彼の音楽的関心が軽々と国境を飛び越えていることを明確に示した作品でもある。

Don't You Worry 'Bout A Thing

 

8. アイズレー・ブラザーズ『3 + 3』(8月7日発売)

これはアイズレー・ブラザーズにとって11枚目のアルバム。とはいえ、オリジナル・メンバーである3人の兄貴たちに加えて、歳下の3人——弟、義弟、弟——が正式加入したのは本作からであり、我々が知るアイズレー・ブラザーズはここから始まる。

そして、この6人組は最初から絶好調だった。なんといっても、冒頭に収められた「That Lady」の鮮烈さ。まあ、よくよく見ると収録曲には気軽なカバーも目立つのだが。

The Isley Brothers – That Lady, Pts. 1 & 2 (Official Audio)

 

9. ウォー『Deliver the Word』(8月発売)

聖書にちなんだタイトルに聖書っぽい黒皮ふう装丁で登場したウォーの第6作。70年代に名作アルバムを連発していたウォーのカタログの中では、やや地味な部類に入るだろうか? 特に、前年の『世界はゲットーだ!』こと『The World Is a Ghetto』や、次作『仲間よ目をさませ!』こと『Why Can’t We Be Friends?』と比較すると。

それでも本作は、「Gypsy Man」と「Me and Baby Brother」というヒット2曲を生んだ。前者に関しては1988年にステージでの演奏中にパーカッション担当のパパ・ディー・アレンが亡くなるという悲劇があり、それ以来、ウォーのコンサート・レパートリーから外されたという……。

Gypsy Man

 

10. マーヴィン・ゲイ『Let’s Get It On』(8月28日発売)

1971年の『What’s Going On』、1972年の『Trouble Man』、そしてこの後にも1976年の『I Want You』と続くマーヴィンの絶頂期を彩る快作の一つ。もっともマーヴィンは、その間も常に悩んでいたのだが。

テーマこそ共通するものの、過剰な美意識が隅々まで行き渡った『I Want You』と比較すると、特にタイトル曲はえらくレイドバックして聞こえるが、本作にこそマーヴィンの苦悩と葛藤が最も色濃く表現されているという説もある。

Let's Get It On

 

11. ハービー・ハンコック『Head Hunters』(10月26日発売)

ジャズ側からファンクへのアプローチ……というより、ジャズマンがファンクそのものと化してしまう試みとしては、もちろん前年にマイルス・デイヴィス師匠が出した傑作『On the Corner』がある。それでも、後世に与えた影響では本作の方が大きいかもしれない。それほどに「Chameleon」のインパクトは強烈だ。タイトル通り、ゆっくりのっそり忍び寄る爬虫類のようなベースラインは不気味にしてユーモラス、そしてキャッチーだから。

10年前の名曲を作者であるハービー自らが超絶解体&再構築し、似ても似つかぬ姿に変えてしまった「Watermelon Man」の衝撃も忘れがたい。

Herbie Hancock – Chameleon (Audio)

 

12. オージェイズ『Ship Ahoy』(11月10日発売)

前年の『裏切り者のテーマ』こと『Back Stabbers』に比べると地味……でもないか。劇的さの面でこそ後退したものの、冒頭の「Put Your Hands Together」から快調だ。世界で最も有名な金満社会風刺ソングであろう「For the Love of Money」は、弦楽器も打楽器もエフェクターかけすぎで聴いていてクラクラする。そしてヘヴィ・D&ザ・ボーイズでもサード・ワールドでもおなじみの「Now That We Found Love」も本作に収録。

 

最後に、ヨーロッパからのボーナスビーツを2点。

 

シン・リジィ『Vagabonds of the Western World』(9月21日発売)

ブラックでアイリッシュな一世一代のロックスター、フィル・ライノットが率いるシン・リジィは、明らかにカーティス・メイフィールドっぽい「The Hero and the Madman」を含むサード・アルバムを発表。ジャケットはチェ・ゲバラの肖像画で有名なジム・フィッツパトリックだ。

The Hero And The Madman

 

アヴェレイジ・ホワイト・バンド『Show Your Hand』(9月発売)

アイルランドから海を渡ったスコットランドのダンディー(Dundee)出身、「平均的な白人バンド」と名乗る連中のデビュー作。あの「Pick Up the Pieces」を含む次作『AWB』には及ばないが、本デビュー作もかなりの好評を得た。

This World Has Music

Written By 丸屋九兵衛

*月刊丸屋町山オンライン・トーク開催中(アーカイブ公開中)

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