マルーン5、新作『Love Is Like』解説:オーガニックに音楽を作りあげた8枚目のアルバム

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アダム・レヴィーン率いるマルーン5(Maroon 5)が、前作『Jordi』(2021年)以来となる4年ぶりのニュー・アルバム『Love Is Like』を2025年8月15日にリリース。

音楽ライター服部のり子さんによるこのアルバムについての解説を掲載。

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来日公演でも予告した8枚目の新作

今年2月の東京ドーム公演でアダム・レヴィーンが「ニューアルバムが出るよ」と漏らした、その新作が言葉どおり届けられた。彼らにとって8枚目となるアルバム『Love Is Like』は、2025年8月15日にリリースとなり、日本では新たな試みとしてライナーノーツがCDのブックレットではなく、レコード会社の公式サイトに掲載され、配信で聴いている人にも読んでいただけるようになった。ブックレット、とりわけ楽曲のクレジットなどのデータが掲載されているオリジナルのブックレットには有益な情報が詰まっているので、それらを参考にしながらアルバムをご紹介していきたいと思う。

リリースに先立ち、アダムがアメリカの人気TV番組に出演して語ったことがウェブの記事になっていて、それを読むと、バンドが活動を始めた頃に立ち戻って、自分達の立ち位置、おそらくそれは2025年にビルボードが選出した<21世紀のトップ・バンド>という称号だったりすると思うけれど、それらを気にすることなく、オーガニックに音楽を作っていくことを大切にしたと語っている。それがヴィジョンになったようだけれど、とにかくアルバムにはいろいろなシチュエーションのラヴ・ソングが詰まっている。

そして、そのヴィジョンを具現化させるにあたって、さまざまなプロデューサーが力を貸してくれたという。まずキーマンになるのが、アダムと共にエグゼクティブ・プロデューサーに名を連ねているジェイコブ・カシャーだ。

彼が共作した「Sugar」が2015年に全米2位となり、ライヴに欠かせない1曲になったと同時に、ジェイコブもヒットメーカーとして広く知られるようになった。そこから続く2017年のアルバム『Red Pill Blues』に始まり、この新作まで3作連続でエグゼクティブ・プロデューサーを務めている。今回も(日本盤ボーナストラックを除く)10曲中7曲でアダムらと共作しているが、その曲作りに関してジェイコブは、かつてアメリカのメディアに対してこんな発言をしている。

「思いつきから始まり、仲間と書いた“Don’t Wanna Know (feat. Kendrick Lamar)”が出来た時、すぐにデモを作ってアダムに送らなきゃって思ったんだ」なるほど……。

 

クレジットから見るニューアルバム

マルーン5は、現在外部のソングライターと積極的に組んでいる。クレジットを見ると、フェデリコ・ヴィンドヴァー、マイケル・ポラック、ナタリー・サロモン、リオ・ルート、イロフ・ローヴといった名前が並んでいる。このなかで全曲で共作しているのがフェデリコだ。アルゼンチン出身で、マイアミ大学時代にゴスペルやR&Bと出会った彼は、ジャスティン・ティンバーレイクやコールドプレイ、メーガン・トレイナーらのプロデュースで実績があり、本作では楽曲プロデュースのほか、ストリングスのアレンジや楽器演奏まで担っている。

だけれど、もともと曲作りはバンド主体だった。それなのに今回はアダムが全曲で共作しているものの、他のメンバーはサム・ファラー(b)が「Hideaway」「Priceless feat. LISA」「My Love」に、サムとジェイムズ・ヴァレンタイン(g)が「All Night」の共作に参加しているだけだ。

この状況についてアダムは、人気TV番組『ザ・トゥナイト・ショウ』に出演した際、人気プロデューサーであり、今秋セレーナ・ゴメスと挙式するベニー・ブランコから、バンド内で完結させるのではなく外部のライターを起用するようにアドバイスされたと語っている。

そこから生まれた曲のひとつが、2011年に全米1位になった「Moves Like Jagger」だ。当初はきらびやかな歌に戸惑ったものの、振り返ってみると、マルーン5が時流をつかまえられたきっかけの曲だったと思う。R&B、ファンク、ヒップホップとロックのポップなハイブリッドという独自スタイルに変わりはないけれど、ここが頂点を極めていくターニングポイントになった。その一方で、アダムはメンバーを締め出しているのではないか、という気持ちにもなったそうだ。ここが気になっていた点で、東京ドームでのライヴでもアダムと他のメンバーとの温度差というか、もっとPJモートン(key)とか目立ってもいいんじゃないかと思ってしまったけれど、そこは心配するようなことはなく、メンバーとは信頼関係でお互いを支え合っているという。愛があるから、ともアダムは話している。

 

自然な流れで決まったゲストたち

さて、今回もゲストを迎えている。前作『Jordi』も豪華だった。異なる人とコラボすることで、新しいエネルギーが得られると考えているらしいが、結果としてはどうだったんだろうか。全米での反応はちょっと鈍かった。それを踏まえてということではないと思うけれど、“オーガニック”という言葉が示すように今回は、自然な流れで素晴らしいゲストを選ぶことが出来たそうだ。ということは、人選が先ではなく、この曲を完璧にするためにはこのゲストが必要だったということだろう。。

具体的には、アルバム・タイトルにもなった「Love Is Like」ではラッパーのリル・ウェインをフィーチャー。ニューオーリンズ出身の彼は、「カーター・シリーズ」と呼ばれる自身の幼少期の写真がジャケットに使われたアルバムなど、5枚の全米No.1アルバムを誇り、最優秀ラップアルバム賞などグラミー賞を5回受賞している。そんな彼がバースを提供していて、アダムの歌もラップに寄せていたりする。

先行配信された「Priceless」は、BLACKPINKのLISAがゲストだ。この曲についてアダムはこうコメントしている。

「僕らにとって久しぶりのギターが主体となった曲で、アルバムをレコーディングするなかで純粋に生まれたものなんだ。LISAの参加も本当にうれしい。イントロのギターは、実はiPhoneのヴォイスレコーダーで録った、プラグを抜いたギターの音なんだ。ファンのみんなが“あのサウンドをもう一度聴きたい”と言ってくれたこともあって、自分達のルーツに立ち戻ってみたような曲で、レコーディング中は少し感傷的になった」

ジェイムズも「アダムがデモを送ってくれた時、初期のマルーン5を聴いているようで超感動した。コード進行とか、全体の雰囲気とか、僕がバンドに加入する前年に彼らの演奏を聴いて興奮したことを思い出させてくれた。本当に気に入っているし、この曲がアルバムのサウンド作りを確立させてくれたと思う」と語っている。そう、デビュー・アルバム『Songs About Jane』を思い出させてくれる1曲になっている。

少し話が逸れるが、想起させるという点では、「California」を聴いて、映画『はじまりのうた』の「Lost Stars」が頭に浮かんだ。こういうせつない歌がアダムのハイトーン・ヴォイスには合っていると思う。

ゲストはもうひとり。「I Like It」ではラッパーのセクシー・レッドをフィーチャー。バイラルヒットからチャンスを掴み、ニッキー・ミナージュが手掛けたリミックス「Pound Town 2」や、ドレイクのツアーのオープニング・アクトで注目されている27歳だ。

それからプロではないけれど、「All Night」のイントロで聴こえるサックス。キャッチーだけれど少し素人っぽいなと思ったら、演奏しているのはアダムのお父さんであるフレッド・レヴィーンだ。もうひとり、この曲にはジェイコブ・セスニーという、これまでもマルーン5と共演しているサックス奏者も参加している。

さらにこのMVは、ロバート・パーマーの「Addicted To Love」のMVにインスパイアされたもので、ヴォーカリストとしてパフォーマンスしているのはアダムの妻でモデルのベハティ・プリンスルーであり、家族も参加した1曲となっている。

 

サンプリングした曲と元ネタ

「Priceless」のイントロも涙ものだけれど、今回はイントロからサンプリングが印象的に使われている曲が5曲もある。簡単に紹介していくと、

「Love Is Like feat. Lil Wayne」では、1972年のヴァレリー・シンプソンの「Silly, Wasn’t I?」を。シャロン・フォレスターにカヴァーされたことで、ラヴァーズ・ロックの名曲としても知られている。

「Yes I Did」では、「I Know Where Your Coming From」。日本のソウル・ファンにも人気があるシンガーで、ソングライターとしても活躍してきた御年79歳のサム・ディーズの楽曲だ

「I Like It feat. Sexyy Red」では、ヴォーカル・グループ、The Festivalsの「Take Your Time」を。彼らの1970年のこの曲は、サンプリングされることが多い。

「Burn Burn Burn」では、「You Know I Love You」。1970年代にヴァージニアのアンダーグラウンド・シーンで活動した女性シンガー、バーバラ・スタントの代表曲のひとつ。

「Jealousy Problem」では、1970年代のファンク・バンド、ブラック・ヒートの「Zimba Ku」がサンプリングされている。

これら5曲のなかにはよくサンプリングのネタになっているものもあるけれど、隠れた名曲もあり、プロデューサーの手腕が感じられる

最後に、日本盤のCD(通常盤)のボーナストラックとして、東京ドーム公演でライヴ録音された「Payphone」「Memories」「Sugar」の3曲が収録されている。あの日の興奮が蘇ってくる人も多いだろう。ソールドアウトになった東京ドーム3daysは、バンドにとっても記憶に残るライヴになったようで、前述のTV番組でアダムが「生涯かけてやってきたこと、自分の人生が肯定されている思いがした」といったことを語っていた。

すでに秋から始まる全米ツアーのスケジュールも発表されている。また近いうちに来日してくれるのではないか。これらの新曲が東京ドームに響き渡る日を楽しみにしたい。

Written By 服部のり子



マルーン5『Love Is Like』
2025年8月15日発売
CD&LP / Apple Music / Spotify /Amazon Music 


来日公演セットリストがプレイリストに
Apple Music / Spotify / YouTube



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