映画『エターナルズ』の音楽とハンス・ジマー門下生ラミン・ジャヴァディの手腕

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2021年11月に公開され、Disney+(ディズニープラス)にて2022年1月12日から見放題で配信されたマーベル・スタジオによる『アベンジャーズ/エンドゲーム』のその後を舞台に、新たなヒーローチーム“エターナルズ”の活躍を描く映画『エターナルズ』。

この作品の音楽、そして作曲家のラミン・ジャヴァディについて、ライターの長谷川町蔵さんに解説いただきました。

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宇宙の絶対的存在「セレスティアルズ」によって生み出された不死の種族「エターナルズ」は、遥か昔に地球に飛来。以来、人類を守り、導いてきた。任務を終えて世界各地に散り散りになっていた彼らだったが、殲滅したはずの宿敵「ディヴィアンツ」が再び現れたために再集結する……。

アジア系女性監督クロエ・ジャオがメガホンをとったマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『エターナルズ』は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)以来の壮大なスケールの作品となった。というか、前代未聞のスケールかも。何しろ本作には”指パッチン”で全宇宙の人口を半分にしたスーパーヴィラン「サノス」と同等のパワーを持ったヒーローやヴィランが二桁単位で登場するのだから。MCUが提示する新たな映像世界の序章の役割を果たしているマイルストーン、それが『エターナルズ』なのだ。

サウンドトラックも、こうした作品のコンセプトを的確に表現している。サウンドトラックを聴いたなら、アイリッシュトラッド的な「Mission」、讃美歌風の「Domo」、そしてインド音楽的なパーカッションとストリングスがフィーチャーされた「Joie De Vivre」など、伝承音楽のモチーフを使いながらも、フューチャリスティックに響くことを意図していることに気づくはず。作曲を手掛けたのはラミン・ジャヴァディ。MCUの記念すべき“序章”『アイアンマン』(2008)以来のMCU登板となる。

1974年にイラン人の父とドイツ人の母の間にドイツで生まれたジャヴァディは、アメリカのバークレー音大で作曲を学ぶために渡米。大学卒業後に、同郷の映画音楽作曲家ハンス・ジマーの目に留まり、彼の会社リモート・コントロール・プロダクションズにリクルートされ、同社所属の作曲家クラウス・バデルトのアシスタントとして働くことになった。バデルトの代表作『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)にも、補作曲担当として彼の名がクレジットされている。単独のコンポーザーとして注目を浴びるきっかけとなったのは、人気テレビシリーズ『プリズン・ブレイク』(2005-2009)あたり。そして前述の『アイアンマン』で、人気作曲家としてのポジションを確立した。

この時期の彼の作風は、パーカッシヴな打楽器やホーン使いなど、師匠であるジマー直系といえるものだ。ロックを導入するセンスも師匠譲りで、巨大ロボットと怪獣が肉弾戦を繰り広げるSFアクション大作『パシフィック・リム』(2013) では、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン〜オーディオ・スレイヴのトム・モレロをギターにフィーチャー。「これを聴いてアガらない奴なんているのかよ」と言いたくなるほどアップリフティングなスコアを構築している。なお『エターナルズ』オリジナル・サウンドトラックにもジマーが憑依したかのような楽曲「Not Worth Saying」が収録されている。

こうした作風に、ジャヴァディならではの個性が加味されるようになったのは長編映画ではなく、あるテレビドラマだった。その作品こそが『ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)』(2011-2019) 。架空の世界を舞台に、陰謀が渦巻き、ドラゴンが空を舞う同作で、ジャヴァディはクラシックの素養を活かしながらも、エキゾチックな旋律を大胆に持ち込み、いつの時代でも何処の国でもない世界を音響サイドから演出。玉座を争う各王家のテーマ曲を書き分けたりと、その才能を遺憾無く発揮したのだった。

テレビドラマといえば、プロデューサー兼脚本家ジョナサン・ノーランとのコラボレーションも忘れてはいけない。クリストファー・ノーランの実弟にあたる彼とは、『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』(2011-2016)と『ウエストワールド』(2016-) で組んでおり、ノーランのSFテイストを増幅する役割を果たしている。

GOTとジョナサン・ノーランの番組が、全く同時期にオンエアされていたことに注目してほしい。つまりジャヴァディはテン年代を通じて週一のドラマの音楽を2本手掛け続けていたことになる。この膨大な量の仕事が、コンポーザーとしての彼の才能を花開かせたのだ。

そんなジャヴァディが、満を侍してMCUに復帰して手掛けたのが『エターナルズ』だったというわけだ。驚いたのは、エターナルズのメンバーでボリウッド俳優として活躍しているキンゴの映画撮影シーンで使用されたヴォーカル・ナンバー「Nach Mera Hero」もジャヴァディの作曲だったこと。これがインドっぽさを漂わせながらも、ビートはトレンドを押さえていたりと、やたらとカッコいい。歌っているのは、インド・イタリア・マルタの血を引く多国籍シンガー、セリーナ・シャーマだ。

ジャンキー・XLやジョニー・マーなど、もともとポップ・ミュージック畑で活躍していながら、ハンス・ジマーの誘いで映画音楽に取り組むことになったアーティストは少なくないけど、ジマー門下からポップ・ミュージックに打って出た作曲家は今のところ存在しない。でもジャヴァディなら、その最初の例になりえると思うのだけど、どうだろう?

Written by 長谷川町蔵



ラミン・ジャヴァディ『エターナルズ オリジナル・サウンドトラック』
2021年11月3日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


『エターナルズ』

2022年1月12日より:Disney+(ディズニープラス)で見放題配信中
2022年3月4日:MovieNEX発売&デジタル配信中

詳細はコチラ



 

 

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