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ゲーム音楽界の巨匠・植松伸夫が挑む新たな物語-戸塚利絵と語る『メレグノン:ハート・オブ・アイス』

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『ファイナルファンタジー』シリーズで知られる作曲家・植松伸夫と、声優・戸塚利絵にインタビュー。新作交響ファンタジー『メレグノン:ハート・オブ・アイス』の制作秘話や物語への思い、『FF』やcon TIKIにも通じるルーツと創作哲学、そして次世代へ音楽を届ける願いを語る。ライター、東端哲也さんによるインタビュー。


『ファイナルファンタジー』シリーズなど数多くのゲーム音楽を手掛け、今やジャンルの枠を超えて世界中のファンを魅了し続けている作曲家・植松伸夫。近年は自身がキーボード奏者を務める6人編成のバンド「植松伸夫 con TIKI」のライブ活動も盛んな彼が、新たにシンフォニック・ファンタジーを作曲した。

『メレグノン:ハート・オブ・アイス』は音楽と語りで物語を展開する“架空のサウンドトラック”のようなプロジェクト。
英国が誇るロンドン交響楽団が演奏を担当したことでも話題を呼んでいるこの作品について、植松伸夫と、日本盤のレコーディングに参加してナレーションを担当した戸塚利絵(※con TIKIのメンバー)の二人に話を伺った。

――植松さんは高知県のご出身ですね。どんな子どもだったのですか?

植松:ほぼ外で遊んでいましたね。ただ、徒歩で小学校へ行く間に頭の中で物語を作るのが楽しくて、帰りは朝の続きを考えながら歩いたりして。『ウルトラQ』や『ウルトラマン』の放送が始まった時代で、オリジナルの怪獣や必殺技を思いついたり、毎日そういうことばっかり。

――ピアノや楽器を習ったりは?

植松:姉がピアノをやっていましたが、自分は全く何も。それが小学四年生の頃に、あのウィーン少年合唱団が高知に来て、それほど興味はなかったのですが姉に連れて行かれ…結果的に人生が変わるくらい衝撃を受けたんです。生まれて初めて音楽を聴いて涙が出たというか、それまで感じたことのない気持ちになりました。

それで家にあった《アルルの女》とか《カルメン》のような名曲の入ったレコードを聴き始めて。でもその後、高学年になってラジオの深夜放送を聴くようになったらポップスやロックに目覚めて、こっちの方が楽しいなと(笑)。これなら自分でも出来るかもと思うようになって、姉のピアノでメロディを作って遊ぶようになった。

――音楽は独学なのですね!

植松:いや“学んだ”というのはあまりにもおこがましいので、やはり独“遊”でしょうか(笑)。その延長線上で、今もまだ遊んでおります。

――まるで小劇団のような「con TIKI」の活動は本当に楽しそうです。コロナ禍での配信からスタートしたそうですが、近年は欧州ツアーなど海外でも精力的に公演を展開されています。戸塚さんもメンバー(朗読担当)ですね。

戸塚:4~5年前にコンサートの司会をやらせていただいた時に、植松さんに「今度、朗読ものを考えているんだけど、よかったらやってみない?」と声をかけられたのがきっかけです。

植松:厳密に言うとそれは「con TIKI」の仕事ではなくて、僕の書いた『ブリコの物語』という短編小説に音楽を付けた朗読劇だったのですが、それ以来、仲間に。

――「con TIKI」による人気プロジェクトで昨年1stアルバムもリリースされた『アカリガタリ』でもテキストと音楽の両方を植松さんが手掛けられています。

植松:今は戸塚さんもお話を書いてくれています。

戸塚:「con TIKI」では当初、怪談をひとつする度に蝋燭を消していく「百物語」のようなものを考えていたのですが、人を怖がらせるよりは幸せにしたい、物語の中くらい優しさで溢れていてもいいんじゃない? って始めたのが『アカリガタリ』。ただ植松さんが忙しすぎて、ひとりで話を書く余裕がなくなってしまって…

植松:みんなで短編映画を作るつもりで楽しくやってます。作品によっては5~60時間かけないと最後までたどりつけないゲームの世界でずっと仕事していた反動なのかもしれません。

――創作なのに、いろんな人が持ち寄った民間伝承を集めて披露されているみたいな懐かしさとロマンがあります。
そういえば、今回の『メレグノン:ハート・オブ・アイス』にも「そう、語り継がれている…」っていう文章があったりして、とても“昔ばなし”的ですが。

植松:子どもに語って聞かせる“おはなし”を目指すコンセプトが共通しています。歳をとるとどうしても次の世代のことを考えてしまうんです。最近ちょっとおかしいよね、このままでいいだろうかとか、自分の言葉で伝えたいメッセージを『アカリガタリ』には込めたくなる。

――「植松伸夫 con TIKI SHOW」は音楽的にも豊かで、クルト・ヴァイル風のキャバレー・ソングがあるかと思えば、沖縄民謡もあるし、不気味なものから艶っぽいものまで、そんな魑魅魍魎としたところが海外でもウケているのでしょうか。6月にはニューヨークの殿堂、カーネギー・ホールでの公演も控えていますね。

植松:どうかしてますよね、楽器を習ったこともない人間が“独遊”でカーネギーなんて(笑)。

――海外の聴衆は、例えば『アカリガタリ』の日本的な世界観とか、話に登場する河童や座敷童子など妖怪のような存在について、どこまで理解されているのか気になります。

植松:最近は日本のゲームやアニメが世界中に普及しているから、その辺は問題ないと思います。河童もそのまま「Kappa」として広く認知されていますし。

戸塚:海外公演って最初はドキドキでしたが、気の毒な鬼が出てくる話に涙したり、皆さんそれぞれ独自の目線で日本の文化を理解しようとされているのが嬉しい。
それに植松さんの音楽が好きで足を運んでくださっている方たちなので、どこへ行っても温かく迎えられます。

――『ファイナルファンタジー(FF)』の力は絶大ですね! 今や『FF10』の楽曲『ザナルカンドにて』は高校の音楽の教科書に採用されたり、世界的なピアニストのラン・ランさんやクラシック・ギタリストの村治佳織さんもレコーディングした名曲として知られています。

植松:どうかしてますよね(笑)。大学を出てから音楽でお金をもらえるようになるまでが結構長くて、バイトで食いつないで生活していた頃の自分に言っても絶対信じないでしょうね。

――当時住んでいた日吉のスクウェア(現スクウェア・エニックス)に、ひょんなことから出入りしているうちに「ゲームに曲を書いてみないか」って声をかけられたのが入社のきっかけとか。作曲は学生時代からですか?

植松:大学生の頃にTEACから出た、カセットテープを使用した4トラックのマルチトラック・レコーダーを思い切って購入したのですが、それでシンセサイザーを多重録音しながら自分が思い描く音を作って人に聴かせることができるようになったことが大きい。

ひと昔前だったら自分のような人間は作曲家にはなれなかったと思います。演奏もできないクセにイギリスのプログレが大好きで、あとアメリカのシンガー・ソングライター系の弾き語りとか、とにかく浴びるように音楽は聴いていました。いい時代でしたね。

――さて、今回の『メレグノン(Merregnon)』は植松さんと20年来の親交を持つ、ドイツのプロデューサー兼アーティスティック・ディレクターのトーマス・ベッカーさんが手がける“物語性のある”オーケストラ音楽シリーズ。

前作は『ストリートファイターⅡ』や『キングダム ハーツ』などのゲーム音楽で知られる作曲家・下村陽子さんによる『Merregnon:Land of Silence』(2021年6月、ストックホルムで初演)でした。植松さん作曲の『メレグノン:ハート・オブ・アイス』も既に2024年の4月にドイツで初演。

この度、世界屈指のオーケストラであるロンドン交響楽団の演奏でレコーディングが実現し、英語版のナレーションをオスカー女優のアリシア・ヴィキャンデルさんが担当。そして日本語版に戸塚さんが起用されてリリースされるわけですね。

戸塚:はい、もう何をおっしゃりたいのか、よくわかりますよ(笑)。私自身がいちばん驚いているんですから。
だって、他にも有名な女優さんや声優が沢山いらっしゃるのに、どうして私なんですか? って。

植松:2014年に、それまで海外で開催されていた『ファイナルファンタジー』シリーズ楽曲のオーケストラ・アレンジによる新企画コンサート(※もちろん仕掛け人はトーマス・ベッカー)の来日公演『Final Symphony Tokyo music from FINAL FANTASY VI,VII and X』が行われた時に、会場のMCをお願いしたのが戸塚さんでした。

戸塚:オーディションでトーマスさんが「この声の女性がいい」って選んでくださったんです。そもそも植松さんとのご縁を繋いでくれたのは彼でした。

植松:だから今回のも僕が「戸塚さんでやりたい」ってトーマスに提案したら「いいですね!」って大賛成してくれたのです。


――トーマス・ベッカーって、どんな方ですか?

植松:東ドイツで生まれ育ったけれど、西側のお祖母ちゃんから送ってもらうビデオゲームに少年時代から夢中だったそうです。それで壁が崩壊してから大好きなゲーム音楽のコンサートをドイツでもやりたいと、ライプツィヒで開催しているコンピューターゲーム関連の見本市「ゲームズ・コンベンション(GC)」に企画を持ち込んで「Symphonic Game Music Concerts」を立ち上げたのだとか。真面目な親日家のドイツ人です…ちなみに奥さんも日本の方ですよ。

戸塚:とても紳士的で律儀な人。植松さんのことを心から大切に思っているんだなって、よくわかります。

――『メレグノン:ハート・オブ・アイス』の物語は、ドイツの児童文学作家フラウケ・アンゲルさん書き下ろしのオリジナル・ストーリーということですが「発明家のヌオビ」は名前も何となく植松さんの愛称である“ノビヨ”に近いし、その容貌もYouTubeで公開されているミュージックビデオを拝見する限りではとても植松さんっぽい。それに「自信家の犬・ベル」も植松さんの愛犬“アカリ”ちゃん(ビーグル)にそっくりです。

植松:そのへん、明らかに…ですよね(笑)。今回、作曲にあたってはトーマスから様々なリクエストを頂きました。

それも「ヌオビは明るい発明家で冒険家。キュゴは彼が創造した好奇心いっぱいの木製ロボット」のようなキャラクター設定から「ここはこんな楽器を使ってほしい」とか「この曲とこの曲は同時に演奏しても重なるようなメロディで…」のようなものまでいろいろ。なので、彼の頭の中でかなりビジョンが出来上がっているのを感じました。

当然、台本作家さんとも打ち合わせを重ねているだろうし。凄く具体的な注文もありましたよ。「このメロディはマリンバかグロッケンで…」とか「テナー・トロンボーンで飛行しているかんじを出してください」とか「ここではヴァイオリンでいちばん低いGの音がほしい」とか。

――作曲のプロセスを教えてください。

植松:まずはキュゴ、ヌオビ、ベルの3キャラクターのテーマを作ろうと思っていたのですが、最終的にいちばん先に完成したのはアルバム[15]トラック目の「凍りついた涙(Frozen Tears)」という楽曲でした。ひとつ出来上がるとそこから一気に創作が動き出すのですが、その最初を生み出すのにいつも苦労します。

ゲームとかの場合はまずメイン・テーマを作ることが多いのですが、実は今回はメイン・テーマと呼べるようなものはないんですよね。

Uematsu: Merregnon: Heart of Ice: Frozen Tears

――いちばん最初に公式YouTubeにミュージックビデオがアップされ、デジタル配信もされた[17]「雪を滑り抜けて(Sliding Through the Snow)」の前半を聴いた時、何だか大冒険が始まるような予感がしてワクワクしました!

戸塚:私の方にも視聴した人から「あれ何? 植松さんの新しいゲーム? めちゃくちゃ楽しみ!」みたいな連絡がいっぱい届きました。

植松:作曲という行為は同じですが、ゲーム音楽の場合はプレイヤーが遊んでいる間ずっと繰り返しのループを想定して書きます。

それに、オープニング/メイン/フィールド用/バトル用/エンディング…みたいに必要とされる音楽のパターンが既に割と決まっているのですが、今回はそういうのがなくて自由に作曲できました。

Uematsu: Merregnon: Heart of Ice: Sliding Through the Snow

――お話と連動した音楽の展開が素晴らしいです。例えば「…しかし、ヌオビが子守唄を奏でた時には、氷風の踊り子は動き出していたのだ」という語りに続く[06]「意地の悪い氷風の踊り子・ゴヤカイ(Goyakai,the Malicious Ice Wind Dancer)」という楽曲では、本当に子守唄のような優しいメロディの背後から不気味な旋律が聞こえてきて一気に流れが変わったり、[17]「雪を滑り抜けて(Sliding Through the Snow)」も前半のワクワク感が後半になるとだんだん禍々しい雰囲気へと変化していくので、聴き手は「ああ、谷の向こうの“銅鑼”(※ゴヤカイの力の源)に近づいているんだな」ってわかる。

戸塚:音楽そのものが物語を紡いでいくんですよね。

――プロコフィエフの傑作である交響的物語《ピーターと狼》と同じで、子どもにもわかりやすい音楽作品。テキストも絶妙ですし。日本語版の翻訳を担当した野島愛子さんもよくご存じの方だとか?

植松:『ファイナルファンタジー』シリーズのシナリオを書いている野島一成さんの奥様。彼女、元々はスクウェアで通訳の仕事をされていました。

戸塚:単なる和訳じゃなくて、ニュアンスまで自然な日本語で伝えているかんじ…その辺は旦那さんと相談して考えたとおっていました。

――日本語版ナレーションの収録作業はいかがでしたか?

戸塚:英語版のアリシアさんの朗読があまりに完璧だったので、彼女の間合いとか呼吸をそのまま踏襲するべきか、それとも私の個性を前面に出した方がいいのか、悩んだままでレコーディングに臨みました。

でも現場の植松さんが「そこはもっとロックなかんじでいいんじゃないの」とか「con TIKI」でやってるのと全く同じような調子だったので、いったんアリシアさんのことは忘れて、いつものようにリラックスして収録を楽しむことができたと思います。

植松伸夫『メレグノン:ハート・オブ・アイス』❄️日本語版ナレーション収録メイキング🎙️

――戸塚さんはあのアビー・ロード・スタジオで行われたロンドン交響楽団によるオーケストラ録音の現場にも立ち会われたそうですね。

戸塚:植松さんの都合がつかず、私だけでは心細かったのですが、見ておいてよかったです。トーマスさんのこだわりや音楽的にどういう点に留意しているのかが掴めた気がした。それにしても、私には「えっ今のところ何がダメだったの?」って思うくらい、彼がはっきりと指示を出して世界トップレベルのオーケストラを何度も演奏させるのでドキドキしました。

エンジニアさんも数多くの受賞歴がある大ベテランの方らしくて「ちょっと待った、今のチューバのところ」とか、指揮者にも「そこ、少し遅れ気味だから」とか、真剣なやりとりを繰り返すので尊敬の眼差しで見守っていました。

――完成した録音を聴いてみて、本人はどうお感じになりましたか?

植松:いやもう、それは最高ですよ(笑)。同じメロディでも楽器のチョイスや組み合わせによって音楽の世界が全然違ってくるので、オーケストレーションって凄く大事。トーマスとはもう何度も一緒に仕事をしていますが、毎回凄いアレンジャーを連れてくるんですよ。今回も僕の書いた音符をいいかんじで際立たせてくれました。大満足です!

――リリースが楽しみです。そして日本でもぜひ、オーケストラの生演奏による『メレグノン:ハート・オブ・アイス』コンサートを! …もちろん戸塚さんの生朗読で。

戸塚:それはもうこのアルバムの反響次第ですね、皆さんどうかよろしくお願いいたします! トーマスさんも植松さんも、いつも子どもたちのために何か作りたい、子どもたちに音楽を届けたいという願いを共有されているので、コンサート会場には若い世代のお客さんが沢山、足を運んでくれたら嬉しいです。

植松:うまくまとめてくれてありがとう(笑)。

Interviewed & Written by 東端哲也

Uematsu: Merregnon: Heart of Ice: The Ice Labyrinth
The Making of Merregnon: Heart of Ice

■リリース情報

植松伸夫『メレグノン:ハート・オブ・アイス』
2026年6月19日(金)発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


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