ピアニスト児玉桃、最新インタビューを公開

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© Bartek Barczyk

1991年のミュンヘン国際コンクール・ピアノ部門において最年少最高位を受賞し、その後はパリを拠点に精力的な活動を続けているピアニスト児玉桃。3月12日にニュー・アルバム『細川俊夫: 月夜の蓮 -モーツァルトへのオマージュ-/モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番』をリリースした彼女にライター、東端哲也さんがインタビュー。新作について聞いた。


1969年にミュンヘンでプロデューサーのマンフレート・アイヒャーによって設立されたECM(※Edition of Contemporary Music の略)は、ジャズ・シーンで常に良質なアルバムを創作してきた人気レーベル。

アイヒャーはクラシック音楽にも卓越した造詣を持つ人物であり、1984年に立ち上げたECM NEW SERIES は、彼の美学によって既存のレーベルとは異なるポリシーのもとにクラシックの価値観を組み替え、バロック以前から現代音楽まで斬新なコンセプトで様々なレコーディングを行い、音楽ファンを魅了し続けている。

そんなECM NEW SERIES で活躍する演奏家のひとりがピアニストの児玉桃。1991 年のミュンヘン国際コンクール・ピアノ部門において最年少で最高位を受賞し、その後はパリを拠点に精力的な活動を続けている彼女はその才能をアイヒャーに認められ、2013年にラヴェルとメシアンを武満徹の作品で繋いだアルバムで同シリーズから鮮烈なデビューを果たす。

2017年の2作目では、ドビュッシー晩年の名作「12の練習曲」と 21 世紀に書かれた細川俊夫のエチュード6曲を対話させるように収録し、その本質的な関係性が浮かび上がる企みの異色作を創り上げ、こちらもまた高評価を得た。

その児玉桃が今年3月にECM NEW SERIESから待望の第3弾をリリース。今回は2006年12月に水戸芸術館のコンサートホールATMで行われて好評を博した、小澤征爾・指揮&水戸室内管弦楽団との公演のライヴ録音。モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番と、同曲へのオマージュとして同年作曲され、この公演が日本初演となった細川俊夫「月夜の蓮(ピアノとオーケストラのための)」を収録した大注目盤だ。

Seiji Ozawa, Toshio Hosokawa, Momo Kodama ©Michiharu Okubo / ECM Records

「当初は小澤さんが水戸芸術館でされていたモーツァルトのシリーズ公演のために録音された音源で、ECMとの関係はありませんでした。自分としてはかなり気に入っていたのですが、いろいろな事情で未発表のまま長い間眠ったままになっていました。あるとき整理をしていたらそのマスターテープが出てきて、久しぶりに聴いてみたらやはり素晴らしかった!

これはもう何とかして世に出さねばと本気で思って、あらためて水戸にもご相談して了解を得ることができ、、アイヒャーさんにテープを送ってみたのです。すると彼も“ぜひリリースしたい”と仰って。それが2年くらい前のことです。本当は昨年の6月くらいに発売を予定していたのですがコロナ禍もあって、少し延びてしまいました」

「月夜の蓮」は2006年のモーツァルト生誕250年を記念して、北ドイツ放送(NDR)の委嘱で細川が書いた作品。世界初演は準・メルクル指揮&ハンブルク北ドイツ放送交響楽団によってハンブルクのライスハレで行われた。

「メルクルさんとの初演も興奮しましたが、小澤さんとの時は気持ちに少し余裕ができていたこともあって、最高の状態で弾くことができました。密度の濃いリハーサルを通して、マエストロが細部にまで気を配り、細川さんとも打ち合わせを重ねながら一音ずつ丁寧に音を作りあげていくのを目の当たりにして心が高鳴りましたし、水戸室内管弦楽団の熱い演奏もホールの響きも完璧でした。

普通は後から、ここはああすればよかったのにと、反省することが多いですが、、この録音にはそれがありませんでした。その後も様々な国で、異なるオーケストラや指揮者の方々と共に20回以上も演奏する機会に恵まれましたが、水戸での夢のような時間が忘れ難いですね」

モーツァルトの美しき名ピアノ協奏曲・第23番の中でもとりわけ名高い、第2楽章アダージョ(嬰ヘ短調)のメランコリックな旋律が最初に現れかけては消え、最後に再び花開くように出現するのが印象的。

「静かな月の夜、蓮の花は未だ蕾の姿で月光を浴び、開花の時を待ちながら、夢を見ては微睡(まどろ)む。その夢の中には、モーツァルトの音楽への深い憧れが幽かに感じられる…」と、細川は作品のイメージを国内盤ライナーノーツで語っている。

「泥の中から水面に立ち上がった蓮が、月の方を向いて美しい花を咲かせている情景を思い浮かべると、そこに希望が見えてきます。14年前の録音ですが、コロナ禍という“泥の中”にどっぷり浸かっている今だからこそ、余計に心に響きます。花を象徴するピアノと、それを取り巻く水や風を表すようなオーケストラの音が溶け合って、豊かな色彩感を作り出しているのも素敵です」

細川作品とカップリングすることで、よく知られたモーツァルトのコンチェルトもまた新たな輝きを放つ。

「室内楽の魅力に満ち溢れた、このような作品を水戸室内管弦楽団と一緒に演奏できて幸せです。ひとりひとりが個性的なソリストなのに、アンサンブルはまるでひとつの家族のようにまとまるところが凄いです。今回はもちろんアイヒャーさんは録音の現場に立ち会っていませんが、音のクオリティも抜群に良く、こだわりのECMファンにもきっと満足していただけると思います」

作曲家・細川俊夫との関係はこの「月夜の蓮」をきっかけにより深まり、後にドビュッシー「12の練習曲」を演奏する児玉のために6曲のエチュード集(このうち第3~第6番の4曲を児玉がルツェルンで世界初演)が書かれ、前述のECM NEW SERIES 第2弾『点と線~ドビュッシー&細川俊夫:練習曲集』を生む。

「細川さんは、それまで、ピアノの作品をあまり書いてはいらっしゃらなかったのですが、嬉しいことに“月夜の蓮”でその魅力に目覚められたようでしたね。本来ご自身もピアノの名手なので作品はとてもピアニスティックで、ペダルの使い方など、楽器の持つ可能性を最大限に引き出して下さり、弾いていると新しい色彩を発見することができます。

そしてあの独特の間合いに、時間に対する能楽などの日本的な感覚、文化の息遣いを感じます。書き方はモーツァルトの楽譜と同じように明確ですから、まさに東洋と西洋のハイブリッドです。ご自分の言葉を持っておられるので、少し聴いただけですぐ彼の作品だとわかります」

現代の作品はピアニスト・児玉桃の演奏活動において常に重要な部分を占めてきた。

「パリ国立高等音楽院で学んだ“私たちの時代の音楽”に対する捉え方が、今もしっかりと胸に刻まれています。現代音楽は時代を反映し、時に反撥しながら、脈々と続く音楽史の発展に繋がっています。今起こっていることに目を向け、次の世代に伝えていくのも私たち演奏家の大切な役割だと思うのです。生きている作曲家と直に意見を交わしながら新作を一緒に創り出せるのは、なんと光栄なことでしょう!」

それだけに、古典から現代曲まで自然に連なるレーベル、ECM NEW SERIESからのニュー・レコーディングにも大きな期待がかかる。

「アイヒャーさんは天才的であり、オープンマインド。アイデアを沢山持っています。朝オフィスに来て、先ずは何もせずに音楽だけを聴いているような人です(笑)。演奏やサウンドだけでなくデザインや解説に至るアルバム(CD)の全体像をとても大切にされますね。現場では細かいことなどはあまり仰らないけれど、ちょっとした一言にもひらめきがあって当を得ている。録音が始まる前から空気を作り上げてくれる気配りにいつも感銘を受けていました。またぜひ、ご一緒したいです」

コロナ禍で、まだ先の見えない世の中だが、今後も彼女がピアノで描き出す世界を楽しみにしたい。

「おうち時間が増え、これまで弾けなかった作品に触れたり、新しく出逢う楽譜に目を通したりする機会に恵まれ、読書の時間も多く、、日本語で翻訳したいなと思うような本をみつけたり、それなりに充実した毎日です。でも、テーブルだけはやたら大きな我が家に、音楽家だけじゃなくいろんな人を集めて食事とおしゃべりを楽しむのが大好きで、そこから思わぬアイデアが生まれたりするので、またそんなことができる日が早く戻ってくることを、祈っています」

Interviewed & Written By 東端哲也


■リリース情報

2021年3月12日発売
『細川俊夫:月夜の蓮 -モーツァルトへのオマージュ-、
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番』
児玉桃 (ピアノ)、小澤征爾 (指揮)、水戸室内管弦楽団
CD / iTunes / Apple Music / Spotify /Amazon Music

収録曲:
細川俊夫:
1. 月夜の蓮 -モーツァルトへのオマージュ
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23 番 イ長調 K.488
2. 第1 楽章:Allegro
3. 第2 楽章:Adagio
4. 第3 楽章:Allegro assai

児玉桃 (ピアノ)
小澤征爾 (指揮)
水戸室内管弦楽団

録音:2006 年12 月 水戸芸術館 コンサートホール ATM



 

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