晴れた日に聴きたいクラシック音楽11選:リストやハイドンなど偉大な作曲家による名曲選

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天気の変化は気持ちに大きく影響を与えるものだ。やはり晴れの日は元気が出て前向きになり、煌びやかさや快活さに満ちた楽曲を選んで聞きたくなるだろう。今回は、そんな晴れの日の気分をさらに豊かなものにしてくれる楽曲をご紹介する。音楽ライター 長井進之介さんによる寄稿。



1. ハイドン:弦楽四重奏曲 第78番 変ロ長調 作品76の4, Hob. III:78

「弦楽四重奏曲の父」と呼ばれたフランツ・ヨーゼフ・ハイドンが1797年に作曲した弦楽四重奏曲である。第1楽章の冒頭が、太陽の昇ってくる様子を連想させることから「日の出」という愛称で親しまれている。今回はその第3楽章のメヌエットを取り上げたい。生き生きとした音型が繰り返されるこの楽曲は、まぶしい太陽の下、鳥が歌い、色とりどりの花が咲き誇り、喜びに満ちた雰囲気の中で踊る人々の姿が浮かんでくるようである。

2. ドニゼッティ:歌劇《シャモニーのリンダ》より〈私の心の光〉

ガエターノ・ドニゼッティ(1797-1848)のオペラ《シャモニーのリンダ》は、貧しいが芯の強い性格のヒロインであるリンダと、彼女の恋人である画家カルロ(じつはお金持ちの公爵)の恋物語。このアリアはオペラの第1幕、カルロとの待ち合わせに遅れてしまったリンダが家に帰るシーンで歌われる。カルロへの溢れる想いや将来の夢などが華やかな音づかいで描かれたこの曲はコロラトゥーラ・ソプラノ(高い声と超絶技巧が可能なソプラノ)の重要なレパートリーの一つであり、喜びに溢れた伸びやかな旋律、煌びやかな音型の連続は聴いていると力が湧いてくるようだ。

3. ショパン:即興曲 第1番 変イ長調 作品29

フレデリック・ショパン(1810-1849)は4つの即興曲を残しており、それぞれの楽曲の特徴は異なる。最も有名なのは第4曲〈幻想即興曲〉だが、この第1番はそれに次ぐ人気のある楽曲で、4曲中最も軽やかで優雅さに溢れている。3連符の連続によって作り上げられた音楽は進行力があり、前向きな気持ちを後押ししてくれる。中間部は少ししっとりとした雰囲気に移行するが、その優しく語り掛けてくれるような旋律は、木漏れ日の中でまどろんでいるような気分にさせてくれることだろう。

4. シューベルト:ピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 D959より第4楽章​​​​​​​

31歳という若さでこの世を去ったフランツ・ペーター・シューベルト(1797-1828)。彼は亡くなる直前に3つのピアノ・ソナタ(第19~21番)を書いており、それぞれ規模が大きく、豊かに彩られた美しい旋律の作品だ。そのなかの一つである第20番はもっともあたたかく、優しい雰囲気に満ちた楽曲で、“歌曲王”と呼ばれた彼ならではの旋律の美しさを誇る。その第4楽章は歌曲を思わせる主題が少しずつ形を変えながら展開し、美しい花々が咲き誇る夢の世界へと連れて行ってくれるようだ。

5. シューベルト:4つの即興曲 D935より第3番 変ロ長調

この曲も“歌曲王”シューベルトが晩年に書いたピアノ曲である。彼の作品は歌曲同様、歌心にあふれた美しいメロディが特徴的で、それまでの時代の作品には見られないような長いフレーズの旋律、その後ろで刻々と移り変わる和声の妙が魅力となっている。この曲はシューベルトの劇音楽《キプロスの女王ロザムンデ》(D797)からとられた旋律による主題と5つの変奏である。付点リズムや装飾、オクターヴに分散和音など様々な音型、第4変奏に見られるようなジャズにも用いられるリズムの使用など多彩な変奏によって彩られていく。特に第4変奏は雄大な曲想で、大空に羽ばたく鳥たちの姿が見えてくるようだ。

6. リスト:《巡礼の年》第3年 S163/R10より第4曲〈エステ荘の噴水〉

《巡礼の年》はフランツ・リスト(1881-1886)が様々な地を巡り、各地で出会った風景や芸術からのインスピレーションを描いた曲集である。この曲のタイトルにある“エステ荘”とは、イタリアのティヴォリにある貴族エステ家の別邸であり、2001年に世界遺産に登録されている場所だ。大小500の噴水が存在し、さまざまな姿を見せる水の美しさは多くの人々を魅了している。リストはこの情景を軽やかな音型と高音によるトレモロなどを多用することで見事に描写。ピアニストの繊細なタッチが引き出す作品の魅力を味わいながら聴くと、太陽に照らされる水の輝きが目に浮かんでくることだろう。

7. フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 FWV 8より第4楽章

ベルギー出身の作曲家・オルガニストであるセザール・フランク(1822-1890)が、同郷の後輩であるヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに結婚祝いとして作曲、献呈した楽曲である。4楽章から成るソナタだが、一つのモティーフが複数の楽章において現れるという、フランクが得意とした“循環形式”で書かれている。その第4楽章は、幸福感に満ちたヴァイオリンとピアノの対話で始まり、第1楽章から第3楽章までの主題が次々と回想されながら進行する。様々な苦難を乗り越えてたどり着いた幸福を思わせる輝かしさはその日一日を豊かにしてくれるはずだ。

8. グリーグ:《抒情小曲集》第3巻 作品43より第6曲〈春に寄す〉​​​​​​​​​​​​

ノルウェーを代表する作曲家であるエドヴァルド・グリーグ(1843-1907)による、春の息吹と自然の美しい情景が目に浮かぶような作品。この曲はグリーグのノルウェーに対する強い愛情から生まれたもので、デンマークに旅行中ホームシックになり、祖国の美しい自然を讃えて書いたといわれている。あたたかい太陽の光があたりをつつみ、雪がゆっくりと溶けていく様や、氷や水に光が反射していく優しい輝きが繊細に描かれている。

9. フォーレ:バラード 嬰ヘ長調 作品19

ガブリエル・フォーレ(1845-1924)の作品は、旋律同士が多層的に絡み合う中から甘美な旋律が浮かび上がってくる。このような書法から、19世紀末から20世紀初頭に開花した装飾性に富む諸芸術“アール・ヌーヴォー”との関連性が指摘されている。初期の作品であるバラードは、フォーレの作品のなかでもとくに大規模なピアノ曲の一つで、寄り添ってくれるような温かさ、何かを強く求めるような情熱をたたえた作品である。さまざまな場面がドラマティックに転換していくが、特に中盤の力強い旋律のうねりは太陽に向かって咲き誇る花々を思わせる。

10. レハール:喜歌劇《メリー・ウィドウ》より〈ヴィリアの歌〉

親しみやすい物語と音楽によるオペレッタの分野で活躍したフランツ・レハール(1870-1948)の《メリー・ウィドウ》の作品の舞台はパリ。結婚後、わずか8日で亡くなってしまった老富豪の夫の莫大な遺産を手にした美しいヒロインのハンナ。その莫大な遺産と、男性を虜にする彼女の美しさが騒動を巻き起こす。多数の来賓を前に、ハンナが故郷レティンイエの風景を再現すると言って歌うのがこの〈ヴィリアの歌〉である。伸びやかで、少しノスタルジーを感じさせる旋律が、美しい空の広がる地の風景をあたたかい眼差しで描き出している。

​​11. プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26より第1楽章

自身が優れたピアニストでもあったセルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)。ピアノ協奏曲第3番はそんな彼の技巧と色彩豊かな音遣いとが見事に融合した楽曲となっている。この第1楽章はクラリネットのソロやアンサンブルに弦楽器、オーケストラの全楽器が徐々に重なり合い、そこからピアノ独奏が華麗に登場する。その様はまるで雲の隙間から太陽が輝かしく現れるかのようである。打楽器が活躍し、スピード感あふれる曲想も魅力的だ。

Written By 音楽ライター 長井進之介



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