Join us

Stories

ビョークが”声”だけで作り上げた『Medúlla』のヴィジョンとは

Published on

ビョークのキャリアは音楽的に数々の驚くべき変化を遂げてきた。アイスランドのインディーズ・バンド、シュガーキューブスで世界的に知られることになったビョークは、ソロ2作品目『Debut』でロンドンのクラブランドへと移り(1977年、若干12歳でセルフ・タイトルのアルバムをリリースしている)、その後はアヴァン・ポップな『Post』や、音の実験を披露した『Homogenic』が続いた。それとは対照的に、2001年の『Vespertine』は、ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク(原題:Dancer In The Dark)』を撮影した後、女優として感情的に疲れきった 時レコーディングされたためか比較的平凡だったものの、その美しく創造されたラップトップでの映画的手法は、船がまたバランスを取り戻しているようだった。そして3年間の休みを経てリリースした5枚目のアルバム『Medúlla』は、彼女の最も大胆で野心的な作品となった。

その壮大な創造性は、自身で制限を設けたことに端を発している。というのもビョークはこの作品のほとんどを人間の声に基づいた音で作ろうと決めたのだ。そのタイトル(Medúllaはラテン語で「髄」という意味)は、声に基づいたこの作品の唯一の要素を示すと同時に、9.11以後の政治情勢に対する彼女の反応でもあった。「人間の魂とは何か? 社会や宗教、国家にとらわれる前の人間はどうしていたのか?」とビョークはイギリスのガーディアン紙に語っている。

ビョークのセルフ・プロデュースだったこのアルバムは、ニューヨーク、アイスランド、ヴェネツィア、カナリア諸島を含む12か所でレコーディングされ、多岐にわたるミュージシャンが参加し、それぞれの特徴のある声が作品に貢献し、その結果、人間の声の多様性を祝福した驚愕の作品が出来上がった。オープニングの「Pleasure Is All Mine」は美しい男性のコーラスのアレンジメントと野蛮なイヌイットの喉歌の音を対比させている。「Where Is The Line」だけではなく非伝統的なスタイルは使われており、マイク・パットンの深い唸りと、ルーツの元メンバー、ラゼールの加工されたビートボックスのヴォーカルがビョークのバックを務める。2曲はビョークの母国語、アイスランド語で歌われている。特徴的な喉で止める音やロールした’R’の音で、アイスランドの女性作曲家ヨウルン・ヴィザールがピアノのために作られた曲の「Vokuro」の聖歌的なアレンジや、声がまばらで私的な「Oll Birtan」にアイスランド語の刻印が残されている。しかし、最も効果のあるゲストはアヴァン・ロックのアイコン、ロバート・ワイアットかもしれない。常に素朴で子供のようなヴォーカルが、瞑想的な「Submarine」に灯をともしている。

そしてこれはビョークのアルバムなのだから、真似のしようのないビョークのヴォーカルこそが作品の真髄である。厳密に録音されたこのアルバムは、彼女の最も親密で高尚な作品となった。ハイライトの「Oceania」は2004年のアテネ・オリンピックの開会式のために作曲され、ロバート・ワイアットの声が印象的なヒューマン・ビートボックスと一緒になり、さらに蝶のようなソプラノのラインが合わさって、ビョークの最も生々しく、絶望的に美しいパフォーマンスのひとつとなった。

Written By Paul Bowler



ユニークな声:ビョークとアカペラ『Medúlla』のヴィジョン

ビョーク『Medúlla』

btn_store spotify_logodownload_jtunes applemusic

Share this story
Share
日本版uDiscoverSNSをフォローして最新情報をGET!!

uDiscover store

Click to comment

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Don't Miss