キャプテン・ビーフハート最後のアルバム『Ice Cream For Crow』

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1982年に発売されたキャプテン・ビーフハートの最後のアルバム『Ice Cream For Crow(邦題:烏と案山子とアイスクリーム)』は、1974年リリースの『Unconditionally Guaranteed』が全米で192位を記録して以来、アルバム・チャート入りした作品であり、それがまさにふさわしい結末だったのかもしれない。

全英チャートで記録を残したのは10年以上振りともっと長く、1982年に『The Spotlight Kid』が44位を達成した時以来だったが、キャプテン・ビーフハートのイギリスのファンが再び立ち上がり、最後のアルバムは90位を記録した。

パブリック・イメージ・リミテッドなど、70年代後半から80年代前半の新しいグループたちがキャプテン・ビーフハートをインスピレーション元だとあげる中、やっと世界は彼の秩序のあるカオスを迎え入れる準備ができたと言えるのかもしれない。少なくともレーベルのヴァージン・レコードはそう思い、タイトル・トラック「Ice Cream For Crow」をシングルとしてリリースするだけでなく、プロモーション・ビデオの撮影も行った。

しかし、キャプテン・ビーフハートの歌詞の世界のようなその断片的なイメージを理解できないと、ビデオはMTVに拒否され放映に至らなかった。しかし、デヴィッド・フリックがミュージシャン誌のレヴューで述べたように、アルバムは「今日の人工的なファンク・レコードの伝染に比べ、何歩も前を進んでいる」。当時MTVで流れていたのはプリンスの「1999」が門を突き破って以降の音楽だったが「いまだ、彼の要素だったジョン・リー・フッカーのようなガラガラの声のルーツはまだ深く根付いている」。

キャプテン・ビーフハートの『Trout Mask Replica』(1969)に精通している人は『Ice Cream For Crow』の生々しい瞬間の数々を存分に楽しめるだろう。1976年の『Bat Chain Puller』セッションから再度レコーディングされたキャプテン・ビーフハートの素晴らしいソプラノ・サックスも聴ける「The Thousandth And Tenth Day Of The Human Totem Pole」もそのひとつだ。しかし、『Ice Cream For Crow』では、キャプテン・ビーフハートの変遷も見て取れる。ワイルドなヴォーカルは「The Past Sure Is Tense」などで解き放たれ、しかし「The Thousandth And Tenth Day Of The Human Totem Pole」や「Hey Garland, I Dig Your Tweed Coat」などでは計算されたリズムで歌詞を語る。

しかし、彼のバックには変わらず頼りになる騒がしいザ・マジック・バンドがいた。のちにリディア・ランチやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのドラマーとして活躍するクリフ・マルティネスは安定しながらも予測できないドラム・パターンを繰り広げ、ローリング・ストーン誌はそのサウンドを「ココナッツが地面に落ちるような秩序だ」と評した。

『Doc At The Radar Station』でその価値を見せしめたゲイリー・ルーカスは、再びそのギター・ラインを披露し、ソロがハイライトとなった「Evening Bell」はキャプテン・ビーフハートのアヴァンギャルドなピアノをテンプレートとして書き起こされた(そして完璧に演奏して見せた)ようで、彼のキャリア最高の作品と捉えられた。

もともとキャプテン・ビーフハートは、フランク・ザッパを介して、お蔵入りとなった『Bat Chain Puller』のテープのオリジナルのレコーディングを活用して『Ice Cream For Crow』を制作しようと考えていた。フランク・ザッパはその頃にテープの所有権をめぐるハーブ・コーエンとの数年に渡る訴訟を終結していたことで、使用権を認めなかった。キャプテン・ビーフハートは大半の楽曲を新しく書き直すことを強いられたが、それはもはや良いことだったのかもしれない。熱烈なエネルギーで「Skeleton Makes Good」を一夜で書き上げたりもしている。ローリング・ストーン誌は、このアルバムは『Trout Mask Replica』以来、キャプテン・ビーフハートの「最も攻撃的で角のある音楽」と述べた。

「Ice Cream For Crow」のプロモーション・ビデオはMTVを恐がらせたかもしれないが、むしろもっと満足できる流れとなったと言えるかもしれない、ニューヨーク近代美術館に受け入れられたからだ。キャプテン・ビーフハートの最高の作品は、商業的な消費を満たすために作られたことはなく(それを試みた時、彼はファンベースを失った)、彼は本物のアーティストであり、生まれながらのヴィジョンを持ち、自身のミューズを追う以外に選択肢がなかったのだ。だからこそ『Ice Cream For Crow』を発表してから突如姿を消し、もう音楽は作らないと宣言して、絵画の道へ進んだのだ。

その予兆は十分にあった。キャプテン・ビーフハートの絵画作品は常にアルバム・カヴァーを飾るようになっていった。彼はずっと『Ice Cream For Crow』を最後の言葉にしようと計画していたのではないだろうか。アルバムのアートワークには、アントン・コービンが撮影した写真の背景に彼の絵画があり、キャプテン・ビーフハートのポーズはお辞儀と見て取れなくないからだ。または、ローリング・ストーン誌が述べたように、その彼の表情は「狩猟で射止められ、傷ついた動物が見せる恐怖」であり、そこから逃げ出そうとしている動物のような表情だったのだ。

Written by Jason Draper


キャプテン・ビーフハート『Ice Cream For Crow』

【紙ジャケット仕様】【日本盤LP帯を復刻】【初回限定盤/プラチナSHM-CD】

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