サム・スミス「I’m Not The Only One」解説:ドラマチックで、正直で、圧倒的に繊細な最高傑作

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Photo: Universal Music Group Archives

アルバム『In The Lonely Hour』に込められた激しく赤裸々な感情表現を熱烈に受け入れた聴き手であれば、楽曲「I’m Not The Only One」は、サム・スミス(Sam Smith)が長きに亘ってその道の達人として名を馳せるエルトン・ジョンやビリー・ジョエルにもつながる、非常に有能でクリエイティブなソングライターであることの証明だと言うであろう。そう、サム・スミスは、彼らと同じように心の内を吐き出せる、優れた語り部でもあるのだ。

「I’m Not The Only One」は、アメリカでのデビューアルバムからの2枚目の、イギリスでは3枚目のシングルとして2014年8月31日にリリースされた。しかし、アルバムがとらえどころのない愛のもどかしさを執拗なほどに追うのに対して、この曲はとある女性の悩み多き結婚について書かれた客観的な内容だった。

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圧倒的に心に残るドラマ

おそらくシングルのリリースに際してはより妥当な選択があっただろうが、サムはラジオで確実に受ける曲をリリースすることを頑なに拒んだ。そして選ばれた楽曲に対するファンの反応は圧倒的に好意的なものだった。とは言え、この曲の誕生は決してストレートに進んだわけではなかった。基本的なコード進行は早い段階で修正されていたが、より完全な構成をと目指していく途中で1曲分が破棄されている。骨の折れる再検討の末に、「I’m Not The Only One」は徐々に形になっていったのだ。

イギリスでは「Money On My Mind」と「Stay With Me」に続いてリリースされた「I’m Not The Only One」はシングルとして危険な楽曲選択だった。しかし、サムの生まれ故郷であるイギリスのヒット・チャートで3位、アメリカのチャートでも5位を記録し、アメリカでは批評面でも商業面でも爆発的勢いで好意を持って受け入れられ、そして『In The Lonely Hours』のセールスをこの曲が後押しすることはないといった懸念も霧消した。アルバム・セールスは世界中で1,200万枚以上に跳ね上がり、2年連続で世界ベストセラーのトップ5作品に入った。

これまでに12億回以上再生され、最も頻繁に視聴されているサムの映像の一つである「I’m Not The Only One」のミュージック・ビデオでは、『glee/グリー』のクイン役で有名なディアナ・アグロンと『The Mindy Project』のクリス・メッシーナが共演し、家庭内ドラマを非常に上手く演じている。不倫が引き起こす嘘と苦痛の生々しく痛々しいシーンは、『デスパレートな妻たち』よろしくカリフォルニア風の魅力的な衣装がすてきだが、同じことはマンチェスター、メルボルン、マドリードでも毎日繰り返されているのだ。

 

私たち自身についての何かを語る物語

時間が経つにつれて、この作品はサム・スミスの作品の中でスタンダードになった。理由は簡単だ。このピアノ・バラードには明らかなソウル・グルーヴ(着想はほぼモータウンから得ているように筆者には思える)のフックが効果的に仕込まれている。この作品がリリースされた時にビルボードのさまざまなジャンル・リストにこの曲が載っていたことからもそれは説明できる。そして、さまざまなタイプのラジオ局の番組制作者がそのリストを参考にして大量にO.A.されることになった。

切ないメロディーに加えて、この作品には特定の性別やセクシャリティを超えて理解できる感情と思考が、効果的にブレンドされている。「I’m Not The Only One」によって、サムは自分たちのことを教えてくれるような物語を語れる普通な人であるということを知らしめることに成功した。多くの人がこの曲を聴くとサムのファースト・アルバムを思い出すのも無理はないだろう。

その後、サムの楽曲は客観的なものと主観的な告白の間を行き来するようになるが、「I’m Not The Only One」がおそらく『In The Lonely Hour』の最高傑作といえる。ドラマチックで、正直で、圧倒的に繊細なこの曲はきっとこれからも長生きする。グラミー賞の話題や大ヒットアルバムの話題よりも、さらには自分の意見を主張できるオープンな同性愛者の斬新さよりもだ。そして、確実に私たち個々の寿命よりも長い年月を生き続ける。なぜならこの曲は、普遍的な人間の真実というものを歌っているからだ。

Written By Mark Elliott


サム・スミス『In The Lonely Hour』
2014年5月26日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music


最新アルバムサム・スミス『Gloria』
2023年1月27日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



 

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