ヒューマン・リーグの革新的な初期作品『Travelogue』

Published on

バンドを特徴づけるヒット曲「Don’t You Want Me(邦題:愛の残り火)」を収録し、マルチ・プラチナ・ディスクを獲得した1981年の3枚目のアルバム『Dare』は、シェフィールドのシンセ・ポップ先駆者であるヒューマン・リーグの永遠の代表作として知られている。

センスが良く、メロディは魅力的で、驚くぐらいラジオ・フレンドリーな作品は、エレクトロ・ポップの基準となった作品としてよく挙げられるが、その揺るぎない魅力は、不当にもバンドの革新的な初期作品を目立たなくしてしまっている。特に1979年のデビュー作『Reproduction』と壮大な二作目『Travelogue』がそうと言えるだろう。

カリスマ性のあるフロントマンのフィル・オーキーは、『Dare』時代に、新しくヴォーカリストのジョアンヌ・キャトラルとスーザン・アン・サリーを迎え、洗練された魅力を発揮しているが、そうだとしても結成メンバーであるマーティン・ウェアとイアン・クレイグ・マーシュがコルグとローランドのベーシックなシンセサイザー2台を使用して閉鎖された食器工場で曲作りをしていた頃のバンドとは似ても似つかない。

ABCやコムサット・エンジェルズなどシェフィールド出身のコンテンポラリー・バンドも刺激を受けたパンクが煽られていた時代に結成されたヒューマン・リーグは、元々ザ・フューチャーと名付けられていた。マーティン・ウェアとイアン・クレイグ・マーシュは、アディ・ニュートン(後にクロックDVAを結成)が抜けた後、第1希望であったグレン・グレゴリーをメンバーに迎えることが無理だとわかると、その代わりにヴォーカリストとしてフィル・オーキーを迎えた。

ヒューマン・リーグへと名前を変えた3人は、4人目のメンバーとして“ヴィジュアル監督”のフィリップ・エイドリアン・ライトを迎えた。彼が作ったスライド映写はヒューマン・リーグのライヴに新たな未来的な一面を与えた。エディンバラを拠点に置くボブ・ラストのインディ・レーベル、ファスト・プロダクトから 45回転盤の「Being Boiled」とEP『The Dignity of Labour』をリリースした後に、ヴァージン・レコードがヒューマン・リーグと契約を結んだ。しかし、ヴァージンからのデビュー作『Reproduction』とシングル「Empire State Human」は高い評価を得たが、売れ行きは悪かった。

同士であるシンセ・ポップの先駆者チューブウェイ・アーミーが1979年6月発売の「Are “Friends” Electric?」でUKチャートのトップを飾ると、ヒューマン・リーグは商業的な成功を得るプレッシャーをかけられたが、すぐに飛躍的進歩を迎えることになる。ヒューマン・リーグは余分なものをそぎ取ったゲイリー・グリッターの「Rock’n’Roll」(EP『Holiday 80』に収録)のカヴァーを1980年3月に初めて出演したTV番組「Top Of The Pops」で演奏し、セカンド・アルバム『Travelogue』が5月にUKトップ40の16位にランクインした。

後にOMDのプロデューサーを務めたリチャード・メインウェアリングと共に舵を取った冷たく陰鬱な『Reproduction』に比べると、2枚目の『Travelogue』はより纏まりのある作品となっている。もろくて堂々巡りをする「Toyota City」やアパルトヘイトを取り上げた心を打つ「Dreams Of Leaving」などはヒューマン・リーグの元々の実験的要素を保っているが、アルバムの大部分は理解しやすい作品となっている。威張った「Life Kills」と遊び心を持ちながらも合理的なミック・ロンソンのカヴァー「Only After Dark」は特にダンス・フロア寄りの曲で、「The Black Hit Of Space」は意地悪く、スパークス超えのユーモア・センスを披露している。

『Travelogue』は幸先の良い未来を暗示しているが、最終的にはその成功はヒューマン・リーグの内面的矛盾を解消することはなかった。その後1980年11月にバンドは2つに分かれるが、その分裂によって後に2つの新しい世界的ポップ・グループが生まれた。フィル・オーキーとフィリップ・エイドリアン・ライトの新生ヒューマン・リーグは揺るぎない存在の『Dare』と共にカムバックを果たし、マーティン・ウェアとイアン・クレイグ・マーシュはヴォーカリストのグレン・グレゴリーと共にスタイリッシュなヘヴン17を結成した。

Written By Tim Peacock


ヒューマン・リーグ 紙ジャケット/SHM-CDコレクション 2017.11.22発売

“エレクトロ・ポップのパイオニア”、ヒューマン・リーグのオリジナル・アルバム6作品を最新リマスターで一挙初紙ジャケ化!

   


<関連記事>

Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了