ロバート・グラスパー『Black Radio』:5日間で録音されたジャズとヒップホップの架け橋

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何がジャズ・レコードを作り上げるのだろうか? それはロバート・グラスパーが自分にあまり問うことのない質問だろう。

クラシック音楽の教育を受けたジャズ・ピアニストである彼は、ジャズとヒップホップの2つの世界をまたがっている。故郷のヒューストンを後にしてニューヨークにあるニュー・スクール大学に入学すると、ネオ・ソウル・シンガーのビラル・オリヴァーと出会い、後に何度もコラボレートする仲となり、そして、彼にソウルクエリアンズとして知られる意識の高いヒップホップを紹介した。その他同様にブラック・ミュージック界の自由奔放に活動する優れた仲間には、コモン、J・ディラ、クエストラブ、ディアンジェロ、エリカ・バドゥ、Qティップなどがいる。

片足をジャズ、そしてもう片足をヒップホップに突っ込んでいたロバート・グラスパーは、ブルーノートからのデビュー作『Canvas』の“アコースティックなロバート・グラスパー・トリオ”から徐々によりヒップホップをベースとしたロバート・グラスパー・エクスペリメントへと変わっていった。トリオとエクスペリメントとしての要素をそれぞれちょうど半分ずつ含む2009年の『Double-Booked』が発売されると、彼らはバンドとして独力で一歩を踏み出した。

5日間という限られた時間内でロサンゼルスにてコーディングを行わなければならなかったロバート・グラスパーはジャズ中心のアプローチをとり、様々なシンガー、ラッパー、そしてその他の過去のコラボレーターたちをスタジオに招き、結果として非常に協力的で自発的なレコーディングが行われた。すべてのインストゥルメンタル・トラックをライヴで録音し、その殆どがワン・テイクで、多才なエクスペリメントにしか実現できない功績となった。キーボードのロバート・グラスパー、サックスとヴォコーダーのケイシー・ベンジャミン、ベースのデリック・ホッジ、そしてドラムのクリス・デイヴのメンバー4人は生粋のジャズ・ミュージシャンであり、即興演奏と他のアーチストとのコラボレーションが彼らの音楽的性質にとって不可欠の要素となった。

クロス・ジャンルと同世代にとっての魅力のお陰でアルバム『Black Radio』は2013年のグラミー賞にて最優秀R&Bアルバムを受賞し、Billboard誌ジャズ・チャートの1位を獲得した。従来のジャズの考えを突破することは、ロバート・グラスパーにとっての駆動点であり、マイルス・デイヴィスでは心が揺らがなかった世代にとってのセールス・ポイントとなった。

マイルス・デイヴィスは1992年の『Doo-Bop』でハイブリッド・アルバムのコンセプトを少しだけ試し、ハービー・ハンコックは1983年のヒット曲「Rockit」でヒップホップを主流に紹介したが、ジャズとヒップホップ間のクリエイティブな関係は殆どが一方通行で、ヒップホップ・アーティストたちがジャズのスタンダードをサンプリングすることが多かった。それに対して『Black Radio』は違ったアプローチをとっており、それまでヒップホップがサンプリングしていた曲を違う方法で使用している。トラック「Always Shine」でビラルと参加したルーペ・フィアスコは、ロバート・グラスパーの役割を完璧な表現で要約している。

「前例はもうあった。ただそれ自体が、ギャップを埋めてくれるジャズの達人を待ち望んでいたんだ」

最終的な結果は、甘美な楽器、慌ただしいブレイク・ビーツ、ソウル溢れるR&Bヴォーカル、そしてその他のポスト・ボップの生まれ変わりが重ねられた複雑なトラックで成るアルバムが仕上がった。すべての即興演奏をひとつにまとめたのは、ロバート・グラスパーの一連の穏やかなキーボードだ。それは安定した音の基盤であり、アルバムの中で案内役として存在する。

『Black Radio』の殆どがオリジナル・トラックであるが、ポップ・カヴァーやジャズ・スタンダードも含まれており、様々な音楽的境界に橋を架けている。デヴィッド・ボウイの「Letter To Hermione」は魅惑的なR&Bに姿を変えられ、エリカ・バドゥはモンゴ・サンタマリアの「Afro Blue」をジャズ・シャンテューズ(女性歌)に仕上げ、レイラ・ハサウェイはシャーデーの「Cherish The Day」で高揚し、キーター(ショルダーキーボード)とローズのピアノで重ねられたカート・コバーンのリリックを聴いてもニルヴァーナだと気付かないぐらいの「Smells Like Teen Spirit」のカヴァーは聴く人に満足を与えるだろう。

その他には『Black Radio』の異なる面を象徴する2トラックとして、ミュージック・ソウルチャイルドとクリセット・ミッシェルの官能的なデュエット「Ah Yeah」と、ヤシーン・ベイ(モス・デフ)のフリースタイル・ヴァースをフィーチャリングしたタイトル・トラック「Black Radio」が収録されている。墜落した飛行機の情報すべてを記録するブラック・ボックスから名前をとった『Black Radio』は、不穏な時代の中でも良い音楽は永続することを象徴している。

Written By Laura Stavropoulos



ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』
CD / iTunes / Apple Music / Spotify





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