「ディズニー・オン・クラシック ~まほうの夜の音楽会 2025」指揮リチャード・カーシー インタビュー

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ディズニー・アニメーションや映画、テーマパークの音楽を、大編成オーケストラとヴォーカリストの生演奏で贈る、日本最大規模のオーケストラ・コンサート・ツアー「ディズニー・オン・クラシック~まほうの夜の音楽会」。今年は、9月から12月に、全国52公演を行います。
アニメーション映画『ライオン・キング』の他、『メリー・ポピンズ リターンズ』や『ベイマックス』等から、ディズニーの名曲が次々と登場します。アメリカでオペラや『オペラ座の怪人』の指揮者を務め、この特別な公演でタクトを振るうリチャード・カーシーさんに、コンサートの舞台裏をうかがいました。

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― 今年も「ディズニー・オン・クラシック ~まほうの夜の音楽会」の開催が決まりました。

皆様と日本でまたお会いできることを幸せに思います。今年のテーマは、「Circle of Life ~愛を感じて」。『ライオン・キング』(1994)の中心的テーマです。私たちは、常に経験を通して成長しています。このコンサートも、皆様の人生にとって素敵な一ページになると良いなと願っています。そして、コンサートを通したお客様との出会いが、私の人生にも良い影響を与えてくれることをうれしく思っています。

今年は、『ライオン・キング』がフィーチャーされます。

実は、6〜7月にペンシルバニア州の劇場で、ミュージカル『キャッツ』の音楽監督をしていたんです。ブロードウェイで『オペラ座の怪人』の音楽監督と指揮を長年担当してきましたが、同じアンドリュー・ロイド・ウェバー作品の中でも『キャッツ』は初めて。そして、『キャッツ』の後に待つのが、ディズニー・オン・クラシックの『ライオン・キング』です。私は猫を3匹飼うほどの猫好きなので、ネコ科の作品が続き幸せです(笑)!日本で猫カフェに通うのも楽しみにしています。

猫カフェに行かれたことがあるのですか?

東京と大阪で行きました。25年以上猫と共に暮らしてきたので、日本にいても猫と会いたくなるんです。『ライオン・キング』も、猫好きならではの視点で取り組みます!

『ライオン・キング』は、多ジャンルの音楽が交叉する難しい作品ですね。

その通りです。私がこれまでディズニー・オン・クラシックで取り組んできたどの作品とも異なる作品です。というのも、楽曲制作に携わったエルトン・ジョン、レボ・M、ハンス・ジマーが奇跡の競演をしながら作り上げた作品だからです。それぞれの音楽的個性を際立たせつつ、高いストーリー性がそれらを一体化するような稀有な傑作です。

例えば、これほどパーカッションを多用した作品は珍しいものです。オーケストラの中でバランスを取り、ヴォーカリストのリズムの取り方も調整する必要がありました。ドラムと歌い出しの音が重なると音声が聞こえづらくなってしまうので、歌声を少し早めに発してもらうなどです。

― これまでリチャードさんが指揮を務めたディズニー・オン・クラシックとの違いは?

私は、これまでのディズニー・オン・クラシックでは、様々なアラン・メンケン作品に取り組んできました。アラン・メンケンは、歌曲とインストゥルメンタル両方を担当することがほとんどです。それゆえ、歌とそれ以外の場面の一貫性が生じます。

一方、『ライオン・キング』の背景音楽を担当したハンス・ジマーの音楽は、重厚でシンフォニックでありながら、オーケストラでは普段取り入れられないようなユニークなテクニックが光る音楽。歌曲を担当したエルトン・ジョンの音楽とは、カラーが異なります。

エルトン・ジョンはピアノ・ロックなイメージがありますね。

ええ。例えば、私が十代のころに大好きだったエルトン・ジョンのアルバムに、「蒼い肖像」(1976)という2枚組の作品があります。その中に、「トゥナイト」という曲があるのですが、ピアノ協奏曲のようなシンフォニックな作品で、オーケストラに関心を持ち始めた当時の私に影響を与えてくれました。そんな彼の音楽が、シンバの物語に別の色を添えてくれます。

― 更に、レボ・Mによるアフリカン・ミュージックの響きが世界観を広げます。

彼のユニークな音楽は、歌曲に加え、背景音楽のコーラスでも登場します。ヴォーカリストたちと共に、鮮やかな色を咲かせてくれるでしょう。これまでワールド・ミュージックを演奏する機会はあまりなかったので、今回、『ライオン・キング』の楽曲はもちろん、様々なアフリカン・ミュージックを聴きました。新しい経験を通して、視野が広がったように感じます。

― ワールド・ミュージックと言えば、日本の音楽についてはどんな印象ですか。

ディズニー・オン・クラシックでは、2020年に『美女と野獣』イン・コンサートと2025年に『アラジン』イン・コンサートを横浜アリーナで開催しました。その際、日本のポップ・シンガーの方々とご一緒する機会があったんです。それ以来、彼らの音楽のとりこになり、携帯電話にダウンロードして聴いています。今朝も聴いていたんですよ。アメリカでは触れたことがない素敵な音楽で大好き。最近は、プレイリストの半分はJ-POPです。日本語の勉強にもなりますしね(笑)。

今回は、『ベイマックス』(2014)の日本版エンディング・ソング「Story (English Version)」も演奏されます。

実は、『ベイマックス』は観たことがなかったんです。先日、ついに鑑賞し、深く感動しました。そして、日本版のみで聞くことができるこの特別な曲に出会い、取り組めることが楽しみです。ディズニー・オン・クラシックでは、日本のパーク音楽を取り上げることもよくありますが、日本だけで楽しむことができる楽曲との出会いは貴重で、学びが多いです。

リチャードさんは、オペラ劇場の音楽監督も長く務められましたが、『蝶々夫人』を指揮したことはありますか?

モーツァルトの様々な作品や、プッチーニでは『ラ・ボエーム』を振ったことがありますが、『蝶々夫人』の全幕はまだですね。ただ、一部を指揮したことはありますし、自分で歌うことはできます(笑)。日本を舞台にした作品ゆえ、音楽にもそのエッセンスが含まれていますね。昨年、ディズニー・オン・クラシックで長崎を訪れた際、港を見下ろす公園に行き、プッチーニの像やマリア・カラスのバラを見ました。そこに3時間ほど滞在して、『蝶々夫人』の音楽をすべて聴いたんです。とても幸せな時間でした。今年も新しい場所を訪れることを楽しみにしています。

ディズニー・オン・クラシックのお客様とも町で出くわすかもしれませんね。

はい、せっかく訪れることができる日本の町々。今年は、よりリサーチをして、勇気を出して、歩いたり、電車に乗ったりしてみたいです。新たな出会いや発見を求めて。ダイエットにもなりますしね(笑)。おすすめスポットがあったら教えて下さい。

新しい出会いと言えば、今回、初めて披露する楽曲もありますね。

はい!まず、『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018)から「小さな火を灯せ」。「メリー・ポピンズ リターンズ 序曲」と「幸せのありか」は演奏したことがあるのですが、この曲は初めて。みんなでこの華やかで、踊りだしたくなるような音楽を楽しみたいです。

そして、実写版『白雪姫』(2025)から「夢に見る ~Waiting On A Wish~」。この楽曲のエネルギーと構造に恋に落ちました。これまで披露してきた曲とは一味違う世界をお届けできると思います。オーケストラ・コンサートで披露するのは世界初かもしれません。

『ブラザー・ベア』(2003)から「グレイト・スピリット」も、初挑戦です。作中では、ティナ・ターナーが歌いあげました。私のパートナーはティナ・ターナーと知り合いで、個人的にもこの作品を演奏できるのが楽しみです。

『ブラザー・ベア』の作曲は、フィル・コリンズとマーク・マンシーナですね。マーク・マンシーナは『ライオン・キング』の音楽にも参加しています。

そうですよね!二人は、『ターザン』(1999)の音楽も担当していますね。ディズニーには、作品を手掛けたアーティストとの絆を大切するところがあります。その結果、『ブラザー・ベア』と『ターザン』の世界が音楽を通してつながる。そして、『ライオン・キング』にもつながっていく。とても素敵ですよね。これらの作品を同時に楽しめるのもディズニー・オン・クラシックの醍醐味の一つです。

これらの楽曲を表現するのが、オーケストラとヴォーカリストたちですね。

今回のヴォーカリストたちは、『ライオン・キング』の音楽を表現するために、いつもとは少し趣が異なる、多様性に溢れたメンバーです。ディズニー・オン・クラシックに出演したことのあるヴォーカリストもいますよ!楽しみにしていて下さいね。

THE ORCHESTRA JAPANとの共演も楽しみです。

THE ORCHESTRA JAPANの卓越したアーティストたちとご一緒できることは、私の宝物です。大きな責任を感じますが、信頼関係がありますので、ツアー中はいつも次の日の演奏が楽しみなんです。様々なパートが、濃密で複雑な作業を、各々調整しつつ、一つの表現に編み上げていくという壮大な旅路です。一方で、一人ひとりの奏者が個性や思いを表現する場でもある。そして、何より、物語を語ることがゴールです。

その中で、私の仕事は、一人ひとりの奏者が音楽を通して思いを表現できる安全な場を作ることです。それは指揮棒だけでは実現できないもの。ツアーを続ける中で、共に音楽にアプローチし続ける中で成し遂げられるものです。ある奏者が新たな表現を試みると、別の奏者がそれに呼応して新たな響きが生まれたり、相互にインスピレーションを与え合うことができたりする演奏が理想的です。今では、大胆な挑戦もできる信頼関係があることを誇りに思います。それによって、毎回の公演がユニークで素晴らしいものになるのだと思います。

表現をめぐって、意見が異なることもあるのですか?

人は自分自身のことを外からは見られません。それゆえ、自分を良く知るには、他者の視点が役立ちます。特にオーケストラでは、他のセクションや奏者と常にバランスを取りながら演奏をする必要がありますので、相互の観察力や配慮は大切です。誰が正しいとか、間違っているということではなく、よりカラフルで、楽しく、意味深い音楽を生み出すための仲間だと思っています。何か話し合う必要がある時には、コンサートマスターの青木さんや真部さん、各セクション・奏者と話すこともできます。互いに尊敬と愛をもって仕事ができるので、本当にやりやすいです。

指揮者は、ほとんどの時間、観客に背を向けています。観客の状況や感情は察知できるものですか?

確かにいつも背中でコミュニケーションをとっている感じですね(笑)。海外では、“さあ、どんな演奏ができるかな”と試されているような気持ちになることもあるのですが、日本のお客様は常に前向きなエネルギーを送って下さります。一方で、毎日、雰囲気は異なります。ですので、毎回、初デートのような気持ちになるんです。お客様の息遣いや雰囲気に合わせて、もう少し間をおこうかなとか、少し柔らかめに演奏しようかなど、調整することもあります。3000人がじっと息をつめるような瞬間や、ぱっと華やぐような瞬間等、それぞれの瞬間に合わせて表現を変えるんです。随分長い期間に渡って指揮者を務めてきましたが、日本のお客様はとても温かくて、共に楽しんで下さることに感謝しています。今では、パーティーにいくよりも、指揮者としてお客様の前に立つ方が心落ち着くほどです。

日本のお客様には、事前にプレイリストやCDを聴きこんで、準備して下さる方もたくさんいますね。

本当ですね。何も知らずに飛び込む良さもありますし、予習してから足を運ぶ良さもありますよね!私自身は、曲を沢山聴いてからコンサートに行くのが好き。ジェットコースターに乗る際も、何度も乗って、どこで何が起こるかがわかっている方が、余計にワクワクします!

そして、ディズニー・オン・クラシックのライブ・レコーディングがストリーミング等で聴けるようになっていることも、幸せに思います。私自身、好きな音楽を擦り切れるほど聴いては、息遣いから何から完璧に再現できるようになった作品があります。自分たちの作品が同じように多くの人に聴いていただけることは光栄です。自分自身では、ここをこうすればよかった等と感じてしまうので、少し時間をおいてから聴くようにしています。

最後に、リチャードさんにとって5回目となる今年のディズニー・オン・クラシックの全国ツアーに向けて、日本の皆様にメッセージをお願いします。

ディズニー・オン・クラシックに参加できること、そして、日本各地で公演をできることに深く感謝しています。アメリカの小さな田舎町出身の私ですが、今や日本は第二の故郷のような場所です。劇場で、皆様と幸せな時間を過ごせたらうれしいです。いつも応援をありがとうございます。

Written by 井筒 節


「ディズニー・オン・クラシック 〜まほうの夜の音楽会 2025」
9月13日(土)~12月28日(日)まで、全国31都市・52公演を開催
公式サイト
公演スケジュール


永峰大輔、オーケストラ・ジャパン、ディズニー・オン・クラシック・ヴォーカリスト
『ディズニー・オン・クラシック – まほうの夜の音楽会 2021(ライブ)』

2024年9月13日配信
Apple Music

リチャード・カーシー、オーケストラ・ジャパン、ディズニー・オン・クラシック・キャスツ
『ディズニー・オン・クラシック -まほうの夜の音楽会2022 -ライブアルバム(『ノートルダムの鐘』エディション)』

2024年1月24日配信
Apple Music

オーケストラ・ジャパン、ディズニー・オン・クラシック・ヴォーカリスト、辻博之
『ディズニー・オン・クラシック -夢とまほうの贈りもの2023 (ライブ・セレクション)』

2024年4月24日配信
Apple Music

リチャード・カーシー、オーケストラ・ジャパン、ディズニー・オン・クラシック・キャスツ
『ディズニー・オン・クラシック – まほうの夜の音楽会 2023(ライブ・セレクション)』

2024年7月24日配信
Apple Music



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