クール&ザ・ギャングのオリジナルメンバー、ロナルド・ベルが68歳で急逝。その半生を辿る

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Ronald “Khalis” Bell at NYU in 2015. Photo by John Morales.

兄のロバート・”クール”・ベルと共に、不朽のソウル・グループ、クール&ザ・ギャング(Kool & the Gang)の共同創設者として知られるロナルド・ベル(Ronald Bell)こと、ハーリス・ベイヤン(Khalis Bayyan)が、2020年9月9日早朝に急逝したことを、彼のレーベルの広報担当者であるスジャータ・ムーティが伝えている。彼は、妻のティア・シンクレア・ベルと共に米領ヴァージン諸島の自宅にいたという。68歳だった。

過去半世紀で最も成功を収めたソウル・グループの一つであるクール&ザ・ギャングを率いた彼は、パフォーマーとしてだけでなく、数々のヒット曲の作曲や編曲、プロデュースを担うグループの中心人物だった。

音楽を独学で学んだロナルド・ベルの特徴的なサウンドは、忘れられないホーン・ラインと、ベース、シンセサイザー、ヴォーカルで聴くことができる。彼は 「Celebration」「Cherish」「Jungle Boogie」「Summer Madness」「Open Sesame 」など、バンドの代表曲の多くを作曲・プロデュースしている。

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生い立ちと名門ファンク/ディスコ・レーベル“De-Lite”での成功

ロナルド・ベルは、1951年11月1日に、兄ロバートと共にオハイオ州ヤングスタウンに生まれた。プロ・ボクサーだった彼らの父親が、マイルス・デイヴィスセロニアス・モンクと親交があったこともあり、彼は幼少期からジャズを聴くようになる。

1960年に家族と共にニュージャージー州のジャージーシティへ移住した数年後、10歳になったばかりのベル兄弟は、近所の友人たちと“ジャジアックス(Jazziacs)”というグループを結成した。ジャズ、ソウル、ファンクを融合し、度重なるグループ名の変更を経て、彼らは1969年に正式に“クール&ザ・ギャング”となる。

クール&ザ・ギャングがその後15年にわたって在籍することになる名門ファンク/ディスコ・レーベル“De-Lite”と初めて契約を交わした1969年にリリースしたセルフ・タイトルのシングル「Kool & The Gang」で、彼らは初めて全米チャートに登場。同シングルはビルボードのR&Bチャートで19位、ポップス・チャートで59位を記録した。

1970年にリリースした、同じくセルフ・タイトルのファースト・アルバムでは、兄ロバートと共に収録曲の多くを手掛け、グループを特徴づけるホーン・サウンドや、ベース、シンセサイザーを取り入れていった。

1970年に再びR&Bトップ20入りを果たした後、1973年からソウル・ヒットを連発したクール&ザ・ギャングは、出世街道を突き進んでいく。「Funky Stuff」(全米5位)に続く「Jungle Boogie」(R&B2位、ポップス4位)、そして1974年にR&Bチャート1位を獲得した「Hollywood Swinging」や「Higher Plane」などの初期の名曲を続々と発表し、翌年には「Spirit of the Boogie 」でソウル・チャートの首位に輝いた。

1970年代後半になると、ロナルド・ベルがグループのサウンドと作曲チームの中核を担い、1979年に発表したクロスオーバー・ディスコの大ヒット作『Ladies Night』は彼らの名を一躍世界に知らしめ、1980年のシングル「Celebration」はグループ唯一の全米シングルチャート1位を記録した。これらの成功によってトップスターの仲間入りを果たした彼らは、イギリスでも熱狂的なファンを獲得し、7作のアルバムがTOP10入りを、18作がTOP40入りを果たした。

クール&ザ・ギャングの音楽は、『ロッキー』『サタデー・ナイト・フィーバー』『パルプ・フィクション』など、数え切れないほどの名作映画のサウンドトラックにも収録された。

クール&ザ・ギャングはこれまでに、2つのグラミー賞、7つのアメリカン・ミュージック・アワード、25曲のトップ10R&Bヒット、9曲のトップ10ポップ・ヒットに加え、31作ものアルバムでゴールドとプラチナ・ディスクを獲得している他、その巧みなファンクとジャジーなアレンジは、彼らに史上最もサンプリングされたグループの称号も与えている。

ライヴ活動と並行して、ロナルド・ベルはクール&ザ・ギャングのソングライティングとプロデュースに人生の大半を捧げ、新人アーティストの育成にも力を注いできた。彼は、結成当初はトランズレイター・クルー(Tranzlator Crew)として知られていたフージーズ(The Fugees)のデビュー・アルバム『Blunted On Reality』のプロデュースも手掛けている。

2014年、クール&ザ・ギャングは、米TV局のBETが主催する“ソウル・トレイン・ミュージック・アワード”で生涯功労賞を受賞し。翌2015年10月には、彼らの初期のヒット曲の一つである「Hollywood Swinging」の中で彼らが歌うハリウッドの街にある“ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム(Hollywood Walk of Fame)”の星型プレートにその名を刻み、アメリカ音楽界のアイコンとしての地位を称えられた。

2016年にリリースした約10年ぶりの新曲「Sexy」は、ビルボードのR&Bチャートで15位を記録。2018年には、ソングライターの殿堂 (Songwriters Hall of Fame)入りを果たしている。

ロナルド・ベルは、2020年に入ってからもクール&ザ・ギャングとのツアーを続けており、作曲家として1,000曲とも言われる作品を手掛けたきた彼は、グループのドキュメンタリー映画の制作に着手していた。また彼は、ソロ名義での“クール・ベイビー・ブラザ・バンド(Kool Baby Brotha Band)”を含む一連のコラボレーション・プロジェクトや、彼らの幼少期とキャリアを描いた短編アニメ・シリーズ 「Kool TV」の制作にも取り組んでいた。

ロナルド・ベル本人が生前語った言葉

彼は自身が影響をうけたコルトレーンやジャズにについてとのインタビューでこう語っている。

「私が最も影響を受けたのはジョン・コルトレーンです。彼の音楽を初めて聴いた時、“これだ”と確信しました。それはまるで神からのお告げかのようで、以降は彼の音楽しか聴いていませんでした。ことサックスに関して言えば、彼はまるで神様のような、巨匠のような存在で、私は彼に夢中でした。彼が演奏していた音楽や曲名は本当に奥が深くて、私はその虜になってしまったんです。‘A Love Supreme’という曲について理解した時、そこからすっかり引き込まれてしまいました」(英ブラック・ミュージック誌。1974年)

「謙虚さを忘れなければ、成功者になれるでしょう」と彼はの取材に語っていた。「成功に甘んじてしまうと、前進する気力を失ってしまいます。一方で、私たちの心の中では、ジャズこそが最も独創的なインスピレーションの源なのです。私は、“ジャズ”という言葉が嫌いです。フランス語ではノイズ(騒音)を意味しますが、それは真意ではありません」(サウンズ誌。1975年)

名曲「Ladies Night」が生まれた背景

音楽マガジン“Songwriter Universe”とのインタビューの中で、ロナルド・ベルは、グループ内での共同作曲の精神と、それがディスコの象徴的ヒットを生み出すのにどのように役立ったかについて生き生きと語っていた。

「メンバーとスタジオに入っていた時に、クールがやってきて、私はキーボードを弾いていました。当時のクールはスタジオ54みたいなクラブでよく遊んでいたんですが、彼が、“2曲思い付いた。’Hangin’ Out’と’Ladies Night’だ”って言うんです。彼が’Ladies Night’って言った途端に、私の中でものすごい想像が膨らんで、“それだ!レディース・ナイトは世界中どこにだってあるんだ。それにちなんだ曲を書こう”と私は言いました。それでジョージ・スミスが曲を思い付いて、私がサビをつけて、みんなで歌詞をつくったんです」

ロナルド・ベルは、ハディージャ、ラシード、ナディラ、ライザ、マリアム、アミナ、ジェナ、カリス、エイジア、そしてジェームズという10人の子供と、彼らの孫、ロバート・”クール”・ベル、ワヒド・ベイヤン、アミール・ベイヤン、シャリファ・ベイヤンら兄妹、妻であるティア・シンクレア・ベル、そして、クール&ザ・ギャングのメンバーであるデニス・トーマスとジョージ・ブラウンやツアーを共にした多くの仲間たちを後に残した。

彼の葬儀はプライベートで行われ、彼の遺族は、ファンに向けて、献花に代わりに、青少年に放課後プログラムを提供する米国の非営利団体“ボーイズ・アンド・ガールズ・クラブ・オブ・アメリカ(Boys & Girls Clubs of America)への支援を呼びかけている。

Written By Paul Sexton



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