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ジョージ・ハリスン『Brainwashed』:死後に発表された、思い出に満ちたアルバム

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ジョージ・ハリスン『Brainwashed』

 

ジョージ・ハリスンが1987年にリリースした『Cloud Nine』と、最後のアルバム『Brainwashed』の間には、15年もの歳月があった。長く待たされたその時間には、辛い悲しみの影も差している。というのも、ジョージ・ハリスンにとり12作目にしての最後のアルバムとなった本作は、彼の痛ましい死からおよそ1年後に発表されたからだ。

本作は、音楽的に多彩であり、時には不公平にも見過ごされてしまうことのある、珠玉の楽曲が詰まっている。このアルバムに向けた最初のレコーディングは1988年にまで遡り、その時録音されたのが、『Cloud Nine』のプロモーション・ビデオ制作中に書かれた「Any Road」であった。本作からシングルとして正式にリリースされたのは同曲のみで、 2003年春の発売時、英国ではマイナーなヒットとなったものの、米国ではチャート・インを逃している。

「Any road」は、2004年のグラミー賞で<最優秀ポップ・ボーカル・パフォーマンス>部門にノミネートされたが、ジョージ・ハリスンがもしそれを知ったなら、恐らく皮肉に感じただろう。本アルバムにも収録されている同シングルのB面は、ジョージ・ハリスンの最高傑作のひとつと言える、美しいインストゥルメンタル曲「Marwa Blues」だ。 A面曲と同様、これもグラミー賞にノミネートされ、<最優秀ポップ・インストゥルメンタル・パフォーマンス>賞に当然ながら輝いた。ジョージ・ハリスンのギター・プレイと独特メロディ・センスが、この曲では鮮やかに要約されている。

本作収録曲の多くと同様、「Marwa Blues」では、ジョージ・ハリスンの息子ダーニ・ハリスンがギターを、そしてジェフ・リンがキーボードとギターを担当(両者共に、本アルバムの共同プロデューサーとしてクレジットされている)。『Brainwashed』には、ドラマーのジム・ケルトナーやパーカッショニストのレイ・クーパーを始め、旧友の面々も参加しており、表題曲「Brainwashed」でピアノを弾いているのはジョン・ロードだ。だが、本作全体を決定付けている最も重要な雰囲気は、ダーニとジェフとの間の、親密かつ家庭的な関係からこそ生じたものである。

制作の進行が遅かった理由のひとつは、例えば1990年に2作目が出たトラヴェリング・ウィルベリーズや、旧友ラヴィ・シャンカールのアルバム『Chants Of India』のプロデュース、そして1995年に放映されたザ・ビートルズのドキュメンタリー映像作品『Anthology』シリーズの制作など、ジョージ・ハリスンが他の様々な活動に注力していたからである。

また、ジョージ・ハリスンの健康状態も問題であった。体調が悪化するにつれ、『Brainwashed』をどのような作品に仕上げたいか、ジョージ・ハリスンは自らの構想や願望を息子のダーニ・ハリスンと話し合い、共有し合っていた。アルバム制作の過程全体を通して、ジョージ・ハリスンがそこにいたのと同じように聞こえることが、その素晴らしい証拠である。

傑出したトラックには、他に「Rising Sun(邦題:悠久の輝き)」や「Stuck Inside A Cloud(邦題:あの空の彼方へ)」、そしてジョージ・ハリスン版「Run So Far」等がある。この「Run So Far」は元々、旧友エリック・クラプトンが1989年にリリースしたアルバム『Journeyman』に収録されていた曲だ。 『Brainwashed』でのヴァージョンは、ジョージ・ハリスンとダーニ・ハリスンとジェフ・リンだけで録音した、完全に新しいトラックとなっている。「Stuck Inside A Cloud」は、2002年、本作のラジオ向け宣伝用にプロモCDが配布され、Billboard誌の<アダルト・コンテンポラリー・チャート>でマイナー・ヒットとなった。

「Rocking Chair In Hawaii」は1970年、『All Things Must Pass』の制作中に初めてデモが制作された曲で、本作に収録されているジョージ・ハリスンのオリジナル曲の中で最も古いものだ。更に古いもの、つまり『Brainwashed』の中で一番昔からある曲は、1932年に最初に発表されたスタンダード・ナンバー「Between The Devil And The Deep Blue Sea(邦題:絶体絶命)」である。ジョージ・ハリスンが歌唱とウクレレ演奏を担当しているこのヴァージョンは、1992年にテレビ番組用に録音されたもので、参加ミュージシャンの中には、ピアノにジュールズ・ホランド、ベースとチューバにハービー・フラワーズ、ギターに旧友のジョー・ブラウンがおり、ジョージ・ハリスン自身もウクレレ奏者として中々の腕前を披露している。

『Brainwashed』がこれほど素敵なアルバムとなっているのは、なぜだろうか? 何よりそれは、レコーディングに表れている親密感ゆえであり、昔ながらのLPのような感覚を帯びているからだ。つまり本来のLPにあった、序盤、中盤、終盤があるということ。本作の場合、最後を締めくくるのは、政治問題に対するジョージ・ハリスンの継続的な関心が示されている、素晴らしい表題曲で、『Revolver』の「Taxman」を今に置き換えたような、現代ならではの問題がテーマとなっている。

『Brainwashed』は、2001年11月29日にジョージ・ハリスンがこの世を去った後、どれほど偉大なソングライター兼ミュージシャンを私たちが失ってしまったかを思い出させてくれるアルバムだ。今こうして聴いてみると、本作は、悲しみの味わいを湛えながらも、彼がなぜこんなにも愛され尊敬されているのか、その理由の全てを称える作品となっている。

 

- Richard Havers

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