『ジ・エディ』:ジャズの魅力をひとりでも多くの人に伝えたいというチャゼル監督のマインド

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ジャズをテーマにして大ヒットを記録した映画『セッション』と『ラ・ラ・ランド』で監督を務めたデイミアン・チャゼル。彼が製作総指揮/2話分のエピソード監督を担当した全8話のNETFLIXオリジナルシリーズ『ジ・エディ』が2020年5月8日に公開となりました。

パリのジャズクラブが舞台となったこの作品について、音楽ライター/ジャーナリストとして活躍する原田 和典さんに解説頂きました。

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『セッション』、『ラ・ラ・ランド』を連続ヒットさせた“現代映画界屈指のジャズ・アンバサダー”デイミアン・チャゼル監督が、フランスのジャズ・クラブを舞台とするNETFLIXドラマ『ジ・エディ』を完成させた。原作・脚本は『ハリー・ポッターと呪いの子』等で知られる英国の鬼才、ジャック・ソーンが手がけている。

パリに漂着した謎の天才ピアニスト

主人公のエリオット・ウドーは、かつてニューヨークを拠点に活躍した天才ピアニストという設定。今はフランスのパリに移り住み、ジャズ・クラブ「ジ・エディ」を友人と共同経営しながら、その関連ユニット“ジ・エディ・バンド”のリーダー兼作詞・作曲家として毎日を過ごしている。さまざまな人々が「どうして演奏活動に戻らないのか」「またピアノを弾いてほしい」と声をかけるけれど、本人の心はどうにも動かない。

だが第7話では、往年のプレイに少々ではあるが触れることができる。ニューヨークに実在する名門ジャズ・クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」で1996年に収録されたLP『ウドー・アット・ザ・ヴァンガード』が再生されるシーン(かなり力強いモード・ジャズだ)、さらに2005年に「ザンケル・ホール」(これも実在する)でリサイタルを行なったときの映像が登場するからだ。

ザンケル・ホールはカーネギー・ホールの第二会場で約600人のキャパシティを持つ。実在の現役ジャズ・アーティストではラルフ・タウナーやザ・バッド・プラスやリオーネル・ルエケがここでワンマン・コンサートを開催しているが、つまりエリオットも彼らと並ぶほどの人気者なのだということを原作者は裏書きしたかったのだろう。

ポップス界の重鎮が音楽監督を担当

これまでのチャゼル監督は音楽ディレクターにジャスティン・ハーウィッツを起用することが多かった。しかし今回はグレン・バラードとランディ・カーバーがこの任に就いている。グレンはマイケル・ジャクソンの名曲「Man in the Mirror」の共作者であり、アラニス・モリセットのワールド・デビュー・アルバム『Jagged Little Pill』にも携わった大衆音楽の重鎮。ランディはベット・ミドラー、エリック・クラプトン、バリー・マニロウ等のサポートを務め、『ラ・ラ・ランド』『カラーパープル』『ゴーストバスターズ』等のサウンドトラックにも参加、前述「Man in the Mirror」セッションでもキーボードを弾いた。

広い視野を持つ重鎮二人が、“架空のジャズ・バンド”のために用意した音は実に躍動的であり、同時に甘美でキャッチーだ。シリーズ中に何度も登場する「Bar Fly」や「Not A Day Goes By」を、ぜひ自分でもカヴァーしたいと思うジャズ・シンガーやミュージシャンが世界中から現れるのではなかろうか。「Dupin’s Blue」や「Call Me When You Get There」のコンポーザーのひとりに、グレンの旧知にあたるトランペット奏者クリスチャン・スコットの名がクレジットされているのも話題を集めるはずだ。

 

役者の吹き替えではなく、ミュージシャン自身が演奏と演技を兼ねる

そしてジ・エディ・バンドは、全員がミュージシャンで構成されている。俳優が当てぶりするのではなく、音楽家がみずから音楽家を演じているのだ。大ベテランであるランディ以外、いずれも将来性豊かな気鋭ばかり。そこがぼくにはとても嬉しかった。むろん指使いと発音もしっかり合っている。

 

ヨアンナ・クーリク(ヴォーカル):ポーランド生まれ。女優として映画『COLD WAR あの歌、2つの心』などに登場するいっぽう、「Yes Sir, I Can Boogie」などの楽曲を発表。

ルドヴィック・ルイス(トランペット):フランス北部のルアーブル生まれ。ジミー・クリフ、カニエ・ウェスト、ミーターズらと共演、ここ10年ほどはレニー・クラヴィッツのホーン・セクションに所属しながら自身のジャズ・バンドも率いる。

ジョウィー・オミシル(サックス):カナダ・モントリオール育ちのハイチ移民。米国バークリー音大で学び、ロイ・ハーグローヴ、トニー・アレン、ワイクリフ・ジーンらと共演。フェラ・クティに捧げたMV「Be Kuti」は必見の内容。

ダミアン・ヌエバ(ベース):キューバ生まれ。フランシス・ロックウッドのバンドで頭角を現し、ウム(モロッコのシンガーソングライター)とも共演。ゲンブリ(北アフリカの弦楽器)の名手でもある。

ラダ・オブラドヴィッチ(ドラムス):クロアチア生まれ。オーストリア、スイスでの活動を経て拠点をフランスに移す。ピアノ奏者ダヴィド・ティクシエとのデュオでも評価を高めている。

(*編注:下記映像はロックダウン中4月30日の国際ジャズデイに公開された、出演者のミュージシャンが演奏した様子)

この出身地や肌の色や性別の自由さ・開放感こそ、今の音楽界でありアート界でありジャズなのだ、と胸のすくような気分になる。ほかにも、ドラマーのルイス・ムタン(ベース奏者フランソワ・ムタンの双子の兄弟)、サックス奏者ロビー・マーシャル(カサンドラ・ウィルソンやマイケル・ブーブレと共演)、リヨンのモロッコ系音楽集団“ダッカ・マラックチア”などが登場するので、ジャズ周辺の音楽ファンは特に目を皿のようにせずにはいられなくなるはずだ。

物語では彼ら現役ミュージシャンの演唱に加え、“ありもの”もふんだんに聴くことができる。なかでも個人的に引きつけられたのは、第2話に登場するファッツ・ウォーラーの自作自演「I’m Crazy ‘Bout My Baby and My Baby’s Crazy ‘Bout Me」。エリオットの、いろいろ精神的なトラブルを抱えたままニューヨークからパリにやってきた16歳の娘が同年代の男の子と出会い、“やっと心から話し合える仲間を得た”とばかりに笑顔を取り戻し、彼のアルバイトに付き添って街なかを駆け抜けるシーンに、なんとも愛嬌のあるウォーラーのピアノとダミ声が重なる。私は彼に夢中だし、彼も私に夢中なの。物騒な展開も少なくない全8話中、最も青春を感じさせる描写がここにあるとぼくは感じた。

「デイミアン・チャゼル監督とジャズ」というテーマでは数年前、映画秘宝の別冊『新世紀ミュージカル映画進化論』に50ページほどの長文を寄稿したことがある。ジャズの魅力をひとりでも多くの人に伝えたい、というマインドでは彼も自分もそう違いはなかろう。8時間を超えるドラマ・シリーズ『ジ・エディ』を見終えて、ぼくはますます監督とジャズについて語り合いたくなった。

Written By 原田和典


Netflixオリジナルシリーズ『ジ・エディ』独占配信中


Original Soundtrack
『The Eddy (From The Netflix Original Series)』

2020年5月8日配信
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music


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